コンサバとの付き合い方

★こないだセールに行ったときに、淡いピンクのダチョウの羽根のボレロを試着してみました。お値段は半額で2万円。そしてものっすごいふわっふわで、着て鏡見た瞬間店員さんと顔を見合わせて笑ってしまったシロモノなのですが、(私)「ぱ、パーティーって感じですよね〜」(店員さん)「そうですね〜、パーティーならバッチリですよ!」(私)「でもこれ、主役じゃなきゃ着れないかも……」(店員さん)「……色違いの黒なら大丈夫かもしれません!」と話しているうちに、今まで幾度となく繰り返してきた「パーティーの失敗」を思い出しました。


 パーティーと言っても、エロライターが出席できるパーティーといえば『ソフト・オン・デマンド大賞授賞式』か『アウトビジョン大忘年会』(どちらも一流ホテルなどで華々しく開催されます)ぐらいなもので、それも取材の人は別に平服で全然大丈夫なので、一般に「パーティー」と言うともっとも出席する頻度が高いのは「結婚披露宴」なんじゃないでしょうか。私も今までにいちばん多く出席しているのはやはりこの「結婚披露宴」なんですが、何を隠そうこの私、ほんの数回の出席でことごとく失敗しているのです。


 どんな服装だったのか書いてもうまくニュアンスが伝わらない気がするので、友人のコメントを引用してみますと「いや〜、客席みんな銀座って感じなのに、雨宮さんだけ六本木! って感じだったね〜」(新婦・談)。ちなみに結婚式に出席していないときでさえ「雨宮さんて、結婚式で一人だけ新婦よりハデなカッコしてきちゃうタイプだよね〜」(友人・談)というくらい、普段から奇行のような着こなしが悪目立ちしている私ですが、もちろんそれだと結婚式では通用しないわけです。


 華やかな席、というのは、ハデにすればいいっていうのとは違うんですね。5、6年前のことでしょうか。一度、グランドハイアットでの結婚披露宴に招待されたことがありました。私は手持ちのベージュの、安物だけど光沢のある素材の、露出度もそれなりのドレスを着ました。部屋で見たときには、それなりに華やかだと思ったのです。ほかにもいくつか「どっちにしようかな」と思った服がありましたが、靴が合わなかったり、バッグが合わなかったりで結局それに決めたのでした。


 ところが、ホテルの結婚披露宴には、上品で重厚な空気が漂っていて、その中では本当に品のいいものしか生き残れないようにできているのです。特に生地、素材の良し悪しはクッキリと浮き上がるように見分けられる。もう、青ざめるような気分でした。その中での自分の姿の安っぽいこと、みっともないこと……。丸裸にされた気持ちというか、裸のほうがまだましかもしれないぐらいの気持ち(5、6年前はもちっとぴちぴちしとったからのう……)です。


 オシャレで、個性的で、自分らしい服を選んだつもりでいた。のに、それでしたから、私はそういう正式な場所というのが、とても怖くなったし、「今っぽい」とか「自分の好きな感じ」とかとは違う「センス」が必要とされる場所がこの世の中にはあって、その中で「自分の個性」や「自分らしさ」を出すには、まだまだ全然最初の一歩の修行すらできてないのだということをはっきり知りました。


 そのときの披露宴で印象に残っているのは、経理部の女の子が、いつも会社に着てきている黒いパンツスーツのインナーだけ、ノースリーブのスパンコールのついた、上品で華やかなものに替えて着ている姿でした。私のような安っぽいヒラヒラドレスよりもずっと、20代の身の丈に合っていて、品も華やかさもあり、とても素敵に見えた。


 正直私はそれまで、いわゆるコンサバ風のファッションは自分の敵だと思ってたし、軽蔑してたし、はっきり言ってキライでした。でも、結婚披露宴の場所ではそっちのほうが正しいと思ったし、素敵に見えた。自分の安い自己主張入りのファッションのほうがみすぼらしかったのです。まぁ、ホントに安物だったからみっともなかったっていうのもあるんですが、じゃあそのときに好きなブランドの本物のドレスを着ていたらどうだったかというと、たぶん、それも浮いたと思うんですよね。たとえば私の手元には、当時は買えなかった家賃より高いドレスがありますが、確かに華やかだし一流の品ですけれど、これが黄色をベースにした細いマルチストライプの柄物で、うちでは別名「極楽鳥」と呼んでいるもので……。やっぱ、どう考えても結婚披露宴には向いてないんです。ええ、もう私の好み自体が結婚披露宴に向いてないと言わざるを得ない! 大阪のおばちゃん風味のハデ好みなものだから、どうしようもないですね。


 でも、大人になるにつれ、そういう「きちんとしなきゃいけない場所」に行く機会は、結婚披露宴に限らず出てくるものです。私は、そういうときにもう自分が丸裸になったような落ち着かない気持ちを味わうのは嫌でした。そのためには……そう、歩みよらねばならん、今まで「フンッ」と鼻で笑ってきた「コンサバ」と……!


 お金もクローゼットの広さもいくらでもあるわ〜という方ならいいかもしれませんが、こちとらまだまだ着たい盛りの二十〜三十代。欲しい服がいくらでもありすぎて困るぐらいの年齢です。好きでもない服に使う金はねぇ! って感じでしたし、品の良い服は上等で高いもんだと思ってましたから「コンサバ」に歩み寄るのはかなりの難事業に思えました。


 しかしそんなこと言ってる場合じゃない。「きちんとしなきゃいけない場所」に行く機会は、お金がないときにも突然襲いかかってくる可能性があるのです。あわてて買いそろえる時間の余裕も、お金の余裕もないときにそんなことになったら、またあの「丸裸の刑」の二の舞です。なにがなんでもその日のために備えておかねばならん……! そう決意したのは、30歳になってからかですかね。エロライターぐらい「きちんとしなくていい職業」もないですから、まぁそんなに危機感もなかったし、必要もなかったんです。けどやっぱ30代といったら、そりゃあ少しはきちんとせねばならんし、しときたいという気持ちが芽生えてきたんでしょうな。と他人事のように振り返ってますが、「いざというときに頼れる服」のないクローゼットというのは不安なもので、いくら好きな服が増えても、いくら欲しかった服が増えても、なんだか落ち着かない気分だったのは確かです。


 洋服のマナーっぽい本には、よくこういうときには「リトル・ブラック・ドレス」が一枚あれば大丈夫よ〜みたいなことが書いてありますが、私はそれはウソだと思います。日頃から黒がテーマカラーになっていて、黒を着こなすことが得意で、まるで肌の一部のように黒がなじんでいる人であれば、黒でも華やかに装えるでしょう。あと美人な! 美人は黒を着ると華やかさが倍増しますけど、美人以外が着れば華のなさが倍増するという悲惨な結果になります。無難そうに見えて黒とは、そういうマジック・カラーなのです。そんなこととはつゆ知らず、私はリトル・ブラック・ドレス、買いました。そしてぜんっぜん使いこなせなかった! いちばん無難なように思えて、どっちにも(結婚式にもお葬式にも)使えなかった。結婚式にはジミすぎて、お葬式にはきちんと感が足りなくてダメだったんですよね。やっぱ、自分の好きじゃない服をなんとなく「これぐらいなら無難かな……?」と思って買ってもダメなんです。どうせお葬式には着ていけないなら、黒でも光りモノのビーズやスパンコールのついたものや、生地自体に光沢のあるもの、レースの使ってあるものなど、好きな感じの華やかなものを選ぶべきだった。そしたらせめて結婚式やディナーには大丈夫なものになったのに。リトル・ブラック・ドレスこそ、いちばん簡単そうに見えて、実はいちばんセンスが試される難しい服だと、私は思います。


 まずはコンサバに愛せる点があるのを発見することが、私の場合大事なポイントでした。コンサバかどうかはともかく、タランティーノの映画で、ジャッキー・ブラウンが黒いパンツスーツを着てるのはカッコ良かったな〜と思った。披露宴の彼女が黒いパンツスーツだったことも強烈に印象に残ってましたし、じゃあまず、黒いちゃんとしたパンツを一本、買ってみたらどうかと思いました。


 そこで買ったのは、アルマーニでもエンポリオの方でしかもアウトレット(ザ・庶民!)だったんですが、アルマーニの黒いパンツ。別にアルマーニが素晴らしいと村上龍のように(村上龍アルマーニのスーツを褒めた文章、すごいんだよね。言い切り節炸裂でうっとりします)言うつもりはございませんが、このパンツ、試着室から出た瞬間、母と祖母が口を揃えて「脚、ながっ!」と言うほど、脚が長く見えたんです。裾を長めにしてもらってヒール履くと9センチは(ヒールで実際)伸びるし、なんか長〜く見えるようにできてるんですね。何のへんてつもない黒いパンツでも、脚が長く見える服を気に入らないわけがない! まぁ、これを買った瞬間が、私がコンサバと初めて熱い抱擁を交わした瞬間でした。以後、活躍することすること……。私がしゃべる場などに来てくださっている方は、たぶん一度は目にしているかと思われるほど着ています。


 これさえあれば、上に着るものはそこそこ品のいい上等なものって、季節に応じてそれなりに好きなものも持ってるし、場に合うものがなければ上だけ買えばいいのであって、だいぶ気分がラクになりました。


 でも、結婚式などではやっぱりパンツじゃなくてドレスを着たいなぁ……という気持ちもあり、次はワンピースに着手することにしました。「リトル・ブラック・ドレス以外の、流行にあまり左右されず、品のいい、顔うつりの良いもの」を条件に、それとなくいろいろ見ていたら、下半分黒で、上半分サテンで別の色になっているワンピースを見つけ、即買いしました。「柄ものでないこと」「ハデすぎず、ジミすぎないこと」の条件もクリア。これはブランドものではなく、高いものではなかったのですが、安っぽく見えないデザインでよく着てます。これを買ったときが、コンサバとのファースト・キスを交わした瞬間でしょうか。昔だったら悪魔に魂売ったぐらいに感じたかもしれませんが、もうこの頃になるとコンサバかモードかということは、それほど気にならなくなっていました。コンサバなものの中にもいいものがあり、自分を良く見せてくれる服があるとわかったから、その着心地の良さを肌で知ったからです。自分がどう見られるか、ということに対してもですが、周りの雰囲気をブチ壊さずに済むというのがこんなに安心感のあるものなのか……という感じでした。「どこに着ていっても大丈夫な服」。それは単身どっかに乗り込まねばならないとき、いつでも心強い味方でした。


 その二着のおかげで、失敗はだいぶ減りました(減っただけで、まだ失敗してるんですけどね……)。たったパンツ一本と、ワンピース一枚。それに合う靴とバッグ、あと欲を言えばコートもあれば言うことなしです。余裕があるときには、ファーの小物をつけ加えたり、アクセサリーで印象を変えたりすれば良い。「困ったときに頼れる服」があると、とつぜんきちんとしなきゃいけなくなっても安心です。たとえ中身がきちんとしてなくても、心のぼろ隠しになってくれる……! そう思うと、ますます感謝の気持ちで大切にしてしまう二着です。中身スッカスカでしかも下品ですから、なおさらありがたいよね……。


 ちなみにコンサバで「きちんとした」服のお手本としては、安藤優子キャスターの着こなしを見るのをおすすめします。そして華やかな着こなしのお手本にはクリステルを! 安藤優子さんはファッションについての本を何冊か出版されており、私は二冊所有しとります。いい本ですよ。


 ちゃんとすることに慣れてきたら、浮かない、素敵なドレスにも挑戦してみたいものですね。まぁ、そんなパーティーに行く機会もないですけど……。じ、自分の結婚式ではすんごいドレス着たいなぁ……。バレンシアガかディオール、サンローラン希望(どうせ結婚の予定ないから好き勝手なこと言いますよ! 言いますとも!)です。


 そういや結婚で思い出したけど、高城剛氏とご結婚された沢尻エリカさんのそっくりさんAVというのが以前、完成していたのに発売中止になったことがあり、そのパッケージを見たことがあるのですが、パッケージではあの「別に……」会見のときの衣装がバッチリ使われていました。あれ、確かクリスチャン・ディオールのドレスだったと思うんですけど、買ったんでしょうか。借りるルートがあるのかな……。ちなみに中身は残念ながら見てないです。「ここ感じる?」「別に……」みたいな会話をもちろん期待してましたけどね〜。沢尻さんお幸せに!