『監督失格』を観る前に観ておいたほうが良い5つの作品

 衝撃的な予告編が公開され、期待と不安を煽りまくっている平野勝之監督の最新作『監督失格』。私の周りではあまりに重い内容に「ものすごく観たいけど、絶対に観たくない」と言う人も多いですが、今日は「『監督失格』早く観たい! 待てない!」「観たいけど、いきなりこれだけ観てもわかるかな? 平野勝之のことも林由美香のことも、AVのことも全然知らないんだけど……」と期待と不安にうちふるえているみなさんのために、僭越ながら『監督失格』を観る前に観ておいたほうが良いかな? という作品を少しご紹介してみようと思います。

 予告編を未見の方は、まずは予告編からご覧ください。
 http://k-shikkaku.com/trailer/


■北海道三部作(自転車三部作)
※『由美香』『流れ者図鑑』は当初AVとして撮影・発売されましたが、その後タイトルを変えてリリースされました(要するにセックスシーンがあります)。『白 THE WHITE』はAVではありません。

『由美香』(AV発売時のタイトル『わくわく不倫旅行』)
 平野監督の代表作でもあり、平野勝之林由美香について知りたいなら迷うことなくこの一本、と言える作品。『監督失格』をいきなり観ても話を理解するのに差し支えはまったくないが、より深く観たいならこの作品を事前に観ることを強く勧めたい。

 内容は「当時不倫関係だった平野勝之林由美香と、自転車で東京から北海道の最北端まで行く」。こう書くと単純明快ではあるものの、いやいやちょっと待って、それどういうことなの!? 自転車? 北海道? 不倫? といろんな意味でマジで!? と言いたくなる内容。二人の恋愛、セックス、ケンカ、暑い中の過酷な旅路や道中での出会い、風景、ものすごくハードな道中のはずなのに、それらがまるで終わらない夏休みのような独特のムードで見えてくる。『監督失格』は、この作品の続編だと言ってもよい部分があるので、林由美香平野勝之に興味を持っている人、また『監督失格』観賞後に、二人の関係がどのようなものだったのかもっと深く知りたいと思った人にもぜひ観てほしい。


★入手は平野作品の中では比較的容易なほうだが、現在DVDは「再入荷見込みが立っていないため、現在ご注文を承っておりません」状態。こだわりの品揃えのレンタルショップなどにはもしかすると置いてあるかも。『監督失格』公開前後にまたどこかで上映されるのでは? と期待できる作品なので、『監督失格』公式サイトの最新情報(http://k-shikkaku.com/news/)をチェックしておくと、そのうち観れる機会があるかもしれません。

★VHS、DVDが出てます
amazonでの販売 現在販売停止中
TSUTAYAのONLINEレンタル なし 
TSUTAYAのサイトで置いてある店舗を探せます http://store.tsutaya.co.jp/item/sell_dvd/4932545984230.html
★V&R PLANNINGの動画サイトでダウンロード販売があります  http://www.vandr.net/detail.php?no=V105860


『流れ者図鑑 さまよえる全ての人々へ』(AV発売時のタイトル『わくわく不倫旅行2』)
 『由美香』のあと、ふたたび平野勝之が、映像作家の松梨智子とともに自転車で北海道へ。道中お互いに恋心が芽生えていくものの、松梨は映像作家としての自意識と恋心の狭間で葛藤し、追いつめられていく。「同じ北海道で、同じ二人きりの自転車旅行で、ここまで違うか!?」というほど『由美香』とはまったく雰囲気が違い、お互いに言動が裏目に出まくり、傷だらけになっていく。サブカル的自意識をこじらせた経験のある女性にとっては(※注:私のことです……)痛すぎて他人事と思えないキツく刺さる作品。いかに『由美香』という作品が特殊で奇跡的だったのかこの作品と比べて観るとよく理解できるが、個人的には『由美香』よりこの作品のほうが共感できる。女として林由美香と比べられ、映像作家としては平野と自分を比べざるを得ない環境に追い込まれた松梨の姿を観ていると息苦しくなるほどだ。同じように暑く、同じように過酷な道中なのに、風景の印象までもがまったく違い、不穏な閉塞感に満ちている。ズシーンと重く、救いがない。

★VHSのみ? のようです
amazonでの販売 なし
TSUTAYAのONLINEレンタル なし 
TSUTAYAのサイトで置いてある店舗を探せます http://store.tsutaya.co.jp/item/rental_dvd/051245989.html
★V&R PLANNINGの動画サイトでダウンロード販売があります http://www.vandr.net/detail.php?no=V106050
★DMMでダウンロード販売があります http://www.dmm.co.jp/digital/videoa/-/detail/=/cid=42sp00435/



『白 THE WHITE』
 自転車と北海道に取り憑かれたように、平野監督が単身真冬の北海道に自転車で渡り撮影した作品。まぎれもないドキュメントであり、一歩間違えたら確実に死ぬすさまじい状況の中で撮影された映像が、現実離れして幻想的な光景のように見えてくる。『由美香』に続き、『監督失格』公開前後に再上映されるのでは? と期待がつのる作品。

 この三作品を観ると、それぞれの作品で写っている風景がまるで心象風景のようにまったく違っており「ドキュメンタリーとは事実を撮るもの」という固定観念に疑問がわいてくる。こんなに見たまま、気持ちのままが写っているように感じるのなら、巧みに演出をして意図をもって撮影している普通の「映画」と何が違うのだろう? と思えてくる。3作品観ると、平野監督の映像作家としての才能の片鱗が少しはわかったような気持ちになれるかもしれません。

★ソフト自体発売されていないようです


 このあとも平野監督は何度も北海道に行っていたようで『UNDERCOVER JAPAN』(ハマジムより発売中。2000円! 安い! http://www.hamajim.com/shop/NFD-006.php)という作品で、『白 THE WHITE』の続編のような、真冬の北海道を自転車でさまよいまた何度も死にかける平野監督の姿が観れます。AV作品ですが、平野監督のパートにはセックスシーンはありません。クリスマスイブから年明けまでの毎日を、平野勝之真喜屋力カンパニー松尾の三人の監督がそれぞれ撮影した三部構成の作品で、カンパニー松尾監督のパートのみこってりセックスが収録されている、お買い得な一枚です。


■不倫三部作+1
※AVです

『アンチSEXフレンド募集ビデオ』
『わくわく不倫講座』
 AV女優、志方まみと平野監督の不倫が描かれる二部作。『アンチSEXフレンド募集ビデオ』で、平野監督がAV女優を自分の実家に連れていき「僕のセックスフレンドです」と紹介する……という企画で志方まみと知り合い、なんと自分の結婚式の日から志方まみとの不倫を始めるというドキュメントが『わくわく不倫講座』。

安田理央さんが昔書かれたレビューを読むと、どんな内容かわかりやすいです→http://tokyotopless.com/text/rio/stereotype/hp.01.html

『アンチSEXフレンド募集ビデオ』
★VHSのみ
amazonでの販売 なし
TSUTAYAのONLINEレンタル なし 
TSUTAYAの店舗在庫 なし


『わくわく不倫講座』
★VHSのみ
amazonでの販売 マーケットプレイスで一本発見。売り切れ御免  http://www.amazon.co.jp/わくわく不倫講座-楽しい不倫のススメ-VHS-平野勝之/dp/B00014MM60
TSUTAYAのONLINEレンタル なし 
TSUTAYAの店舗在庫 なし
★V&R PLANNINGの動画サイトでダウンロード販売があります http://www.vandr.net/detail.php?no=V213040


 『わくわく不倫講座』『由美香』(『わくわく不倫旅行』)『流れ者図鑑』(『わくわく不倫旅行2』)の3作品を「不倫三部作」と呼ぶ風潮がかすかにあったような気がします。私は今はなき笹塚のピープルというレンタルビデオ店で「『わくわく不倫講座』っていうビデオありますか?」と聞いたところ「それを観るなら、先にこっちを観たほうがいいですよ」と店長さんが親切に『アンチSEXフレンド募集ビデオ』を渡してくれたので、この作品を含めて4作品観ると平野監督の不倫について、いや作品についてよくわかるのではないかと思います。

 特に『わくわく不倫講座』は平野監督のもうひとつの代表作と言って良い作品ですし、恋愛とは? 結婚とは? セックスって何なの? とお悩みの方には興味深く観れる内容なので、ひっかかりを感じる方にはぜひ機会があれば観てほしいです。観るためには、V&Rについて熱く語っている人などを発見したらすかさず持っているか聞いてみるなどの地道な戦術がもっとも有効な気がします。映画学校の人やAV関係者と合コンする機会があったらさりげなく話題を振ってみましょう。


 ほかにも平野監督といえば『水戸拷悶』などなど有名な作品、伝説的な作品が多数ありますが、そのあたりの作品の紹介はもっと詳しい平野ファンのみなさまにおまかせしたいと思います。公開が近づくにつれ、監督のインタビューやAV紹介など詳しい記事も出るでしょうし、もっと深く知りたいみなさんは『監督失格』のサイトなどで情報に目を光らせていてくださいね。


(※ちなみに『水戸拷悶』『ザ・タブー』などもV&Rの動画サイトにありました。平野監督作品一覧はこちらhttp://www.vandr.net/list.php


 しかし「ものすごく観たいけど、絶対に観たくない」というのは、平野監督の作品に対する私の気持ちをなんと的確に表現してくれている言葉でしょうか。ここまで書いておいてなんなのですが、私は平野監督の作品を観ていると、痴話ゲンカでは理屈っぽくネチネチしてるし「なんてめんどくさそうな男の人なんだろう」という気持ちになります。そもそも不倫してるのに不倫相手を「彼女」とか呼んじゃう男の人が嫌いなのでいろいろアレなんですが(※注:実際の平野監督はとてもいい方です)、平野監督作品のすごいところは、そういう生理的とも言える抵抗感をものともせず、引き込まれ、否応なく「面白い」「すごい」と思わされてしまうところです。揺さぶられ、刺さるからきついんです。平常心で何度も観たいとはなかなか思えない。そのくせ弱っているときや、何かに打ちのめされたいときには観たくなる。

 非常にくせのある作風で、監督本人のキャラクターもアクが強く、一見好き嫌いがはっきり分かれそうな作品なのに、あまり「嫌いだ」という意見を聞いたことがないのは、私の見聞が狭いだけかもしれませんが、好き嫌いといったレベルをかるがると越えて迫ってくるようなものがあるからなのではないでしょうか。『監督失格』も、多くの人の好悪や先入観を越えて驚くような深さまで届くのではないかと期待しています。


★手前味噌ですが、私が取材した平野監督の記事へのリンクをはっておきます。
「AV監督への33の質問 平野勝之編」http://www.mens-now.jp/column/pref/d/201102/w/amamiya/p/1/


「豪華監督陣がAV難民!? 謎のレーベル『AV難民』誕生のきっかけは」(前編)http://www.menscyzo.com/2009/12/post_717.html
(中編)http://www.menscyzo.com/2010/01/post_718.html
(後編)http://www.menscyzo.com/2010/01/post_719.html

↑これ今読んでもなんだか身につまされます。クリエイター話が好きな方はぜひ!

★『監督失格』公式サイト http://k-shikkaku.com/