泣くためだけの場所

 ただ抱きついて泣かせてくれるだけの風俗があったら行ってみたいと、年に3回くらい思うことがある。わたしにとって、泣くことが性欲よりも切実な排泄の欲求なんだろうかと思う。泣くことなんてひとりでもできるのに、なぜかひとりで泣くときには無意識にストッパーがかかる。わたしはひとりで声をあげて泣けない。誰も見ていないところで、あられもない泣きかたができない。


 ひとに見せるために泣くのではないのだから、べつにひとりでどんなにみっともない泣きかたをしてもいいはずなのに、不思議に思える。たとえ心もなにも通わない、名前も知らない赤の他人でも、誰かにしがみついて泣けば、大声で泣けるような気がする。


 でもそれってセックスに似てる。ひとりでは大声は出さない。そしてふたりのほうがストッパーが外れる。そういうことを考えると、わたしは赤の他人が好きで好きでたまらないようなそんな気がしてくる。