泣くための場所

 タロットの占いに行ったら塔が崩れるカードが二回続けて同じ場所に出た。三回目はダメ押しのようにひとつずれた場所に出た。「あなた引きが強いわね。今ぱつぱつでしょう」。そして紙一枚ぶんほどの薄い希望しかない暗い未来の話と、その先にある新しい世界の話をきいた。


 イヤホンをつけて音楽を聴きながら長いこと歩いて家に帰ってからも、イヤホンを外す気になれなくてそのまま、音楽のボリュームを上げたままわたしは部屋の古いカーテンを外し、買ってきた新しいカーテンをつけはじめた。


 音楽が耳のなかを通って、喉を抜けて、肺を駆け抜けて心臓を掴む。息が止まる。


 新しいカーテンは、レールにリボンで結びつけるタイプのもので、わたしは両手をレールよりも高く上げて、リボンをきれいな蝶結びにしようと指を動かしていた。指がふるえて、止まって、そのままカーテンにしがみついて泣いた。生成りの薄いカーテンにマスカラがにじんだ。日が落ちてきて窓の色が濃いブルーに変わる。


 リボンがよじれないように、まっすぐリボンを上げて、クロスさせ、結んで、蝶のかたちをつくる。ほどけないよう蝶の両翼をきつくひっぱりながら、世界が終わるとかいって終わらなかったのはいったい何度目か考える。たぶん二回目くらいだけど、わたしの中では世界は何度も何度も壊れて終わっていて、終わっても自分は生きていて、終わったのになぜまだ息をしているのか不思議に思い、何度でも生きていることを呪いながら、暗いところでじっとしているとまた世界のはじまりの光が見えてくる。


 はじまる前の深い深い暗闇の中にまで降りてくる音楽というのがこの世にはあって、それはからっぽになったからだの中にまで入り込んできて、からっぽになったと思っていたからだの中にまだあふれている水を震わせて、まだ生きてるっていう絶望的な希望のことを教えてくれる。音楽がつづいているあいだ、わたしは息をして、水を飲んで、カーテンをレールに結んだりしながら、今しか見ることのできない美しい暗闇を見、そこにあたらしい光が差し込むのを待っている。