★けっこうまめにものを処分するほうなのに、気合い入れて掃除するとごみ袋ひとつやふたつ、すぐにいっぱいになってしまう。最近そんなに買い物してないのに、どこからわいて出たんだろう? と思うけど我が家にはそんなわいて出てくるシステムは導入されてないのでどっかにあったものなんだろう。


 ものをどんどん捨てるのが好きになったのは、確か30歳をちょっと過ぎてからだったと思う。結婚しようと思ったことがあって、引っ越しのためにものを整理することにした。


 最初はおっくうだったが、始めると思いのほか勢いづいた。なにしろ結婚である。「私のこれからのバラ色の人生にこんなくたびれたくつ下いらん!」「薄汚れたバッグいらん!」「こんな微妙な服いらん!」「ねまきだって人に見られるんだし」「間に合わせっぽい食器ももういい! 新しいの買っちゃうもんね」。処分の手はそういったソフト的なものばかりでなく、家具などのハード的なものにまで及んだ。「結婚したら理想のインテリアの家に住みたい」というドリームが強烈にあったからである。家具を捨てるとなるとその中に詰まっているものをどうするかを検討せねばならなくなる。数々の死蔵品がここで姿を消した。


 デカいものやかさばるものばかりじゃない。細かいものもたんねんに取捨選択していった。アクセサリーに化粧品、なんとなく飾ってる小物などなど。「これは私のバラ色の生活にはふさわしくないわ」「こんなの全然良くないじゃない」。どこのアントワネット様だと言いたくなるような高飛車な態度で捨てまくった。


 そのときの私は、全身全霊でステキな奥様ロードを走ろうとしていたのである。結婚したら、引っ越したら、好きなものしか置かないようなシンプルですっきりした生活をしたいと、ずーっと心のどこかで思っていたのだろう。期は熟した。いざステキ人生スタート! と私は意気込んだ。


 ところが、捨ててる最中でふと思ったんである。「なんで私、今までこれやんなかったんだろうなー」って。


 別にいつでも捨てられたはずだ。結婚しなくても引っ越さなくても、捨てるだけならできたはずなのだ。ステキなインテリアや、すっきりしたクローゼットを実現するのに男が要るわけじゃない。恋人がいないから、独身だからってそんなことガマンする必要ないし、先延ばしにする理由もない。広い家に引っ越したらそれに合わせて家具を考える? 仮住まいのつもりでももう五年住んでるのになにが仮住まいなんだ。


 家具もものも1/3ぐらい処分した私の部屋は、相変わらずぼろくて狭くはあったが、見違えるようにすっきりしていた。クローゼットの中には好きな服しかなく、下着もくたびれたものなんかなく、視界にはお気に入りのものだけが並んでいた。ものが減ったぶん、好きなものはますます輝いて見えた。


 結局、私は引っ越しをとりやめて結婚もとりやめた。いろいろ理由はあったけれど、あのときものをガンガン捨てながら「もしかして、私の思ってたバラ色の人生って、意外と一人でもできるんじゃないの?」と思ってしまったことも、理由のひとつだったんじゃないかと思わなくもない。


 理想のステキなインテリアにはまだまだほど遠いけど、私はそのあと憧れの間接照明を買った(地獄のミサワっぽくてアレだけど)。テーブルも買い替えた。食器も気に入るものを見つけたら少しずつ買い足して、気に入らないものを処分してる。もったいなくてしまっていたものはどんどん使いやすいところに出して使ってる。えんぴつ立てとか、食器を洗ったあとに置くラックとか、べつにそれを好きで選んだわけじゃなくてきとうに使ってたものも、新しく好きなものを買ってみた。考えてみたら十年ぐらい使ってる「どうでもいいもの」が山ほどあった。


 そのときから、買いものの感覚はなんだか劇的に変化したな、という気がする。それでも、月に一回ぐらいごみ袋いっぱいのごみが出るわけだけど。でもそのときには持ってなかったあこがれのティーカップでお茶をのんでいる。すこしバラ色の人生だ。