しのださんの悩み相談

 6/13のエントリで篠田監督の作品を紹介しましたところ、篠田監督ご本人よりコメントをいただきました。そのコメントがなかなか、切実な悩みに満ちた味のあるものだったので、ここに引用させていただいて、勝手に悩み相談の回答をしてみたいと思います。

Q.篠田監督からのコメント『初めまして、篠田と申します。
レヴュー作品の監督および「しのだ」というレーベルを主宰しておる者です。
 〈もったいないほどちゃんとエロい。〉AV監督をやっている者にとっては最高のホメ言葉であり、身に余る光栄です。〈もったいない〉という言葉は、ガクーなタイトルと立ち上げ時の広告展開に対して、ちゃんとマットウにエロやってるのに、そんな奇をてらわなくても、という意味ですよね。
 それに関しては功罪相半ばだと思うんですが、今は罪の方が思った以上に尾を引いてて、それを引きずってる感じです。
 エロに関しては、僕も含め、参加してもらってる監督には「女の子と真正面から向き合ってくれ」と口をすっぱく言ってます。
 それはカメラもそうなんですが、もっと心情的な部分で。手練でAVを撮るなんて技術も才覚も器量も僕は持ち合わせてないので、
愚直にその娘と向き合うしかないんです。
 他監督にもその精神だけは忘れないように申し渡してあります。
ヘタクソと2ちゃんでは叩かれてますが、技術は徐々に上げていくしかないと思ってますが。
 ところでエロに関しては、どこに出しても恥ずかしくないと思ってるんですが、それにまだまだ数字がついていってないという現状がありまして。『AVってエロくなくてもよかったんだ』と根源的なことまで悩み始めてます。
 いいAVであれば売れるんだ、なんてことを盲信するほど、青臭くはないんですが、しかしこうまで想像と違うと、すがっていたもの(それは生き方と言ってもいいものですが)が日に日に色あせていくようです。いいAVを作るのも難しいですし、それを売るのも、また難しいです。』

A.はじめまして、雨宮と申します。
 しのださんは、文面から察するにとてもマジメな方なのですね。私もどちらかというとマジメな方で、エロやAVの話になるとさらにマジメが悪化し、ついついツマラナイことで憤り、「こんなヒドイAVは許せん!」とか、または「こんないいものが売れないなんてケシカラン!」と、いちいち激してしまうクセがあり、これはマズイと常々思っているのですが、私のはカーッとしてサーッと冷めてあとで恥ずかしくなるだけで済むのでいいのですが、しのださんは真剣に「これで良かったのだろうか、あれは間違っていたのではないか」と、お休みの日の夕方まで悩んでしまいそうなキマジメさがあるようで、人ごとながら胃のぐあいなどが心配になります。とりあえず最初に言いたいことは、もっと気持ちをラクにして、ガーデンプレイス入口右手のカフェでミルクたっぷりのカフェラテでも買って、ついでにアボガド&シュリンプサンドでも買って、ひと息ついて肩と眉間にガチガチに入った力を抜いてください、ということです。悩みすぎてからだを壊したら、AVを撮れなくなってしまいますよ。

 もったいない、と書いたのはしのださんのおっしゃる通りの意味です。私は観る前は「バラエティぽい企画モノ」だと思い込んでいましたし、わりとふざけた感じの内容なのだと思っていました。実際観たらまったく逆の内容だったので、もったいなく感じたのです。いったいどうしたら売れるのか、広告戦略やタイトルをどうすればよいか、ということについては私は正直よくわかりませんので、そのあたりはS1のプロデューサーのE-YO! WATANABEさんあたりに相談していただくとして、ほかのことについて思ったことを書いてみたいと思います。

 良質な作品を作ったのに、それが予測していたほど受け容れられない現状があり、生き方までが揺さぶられているしのださんのお気持ちは、よくわかります。
 しかし「いいものを作ったのに、それが思ったほど受け容れられない」ということは、監督がみんな若き日に必ず直面することです。いや、ベテランになってからも「なんでよりによってコレが全然売れないんだー!」と悶絶するような出来事が、忘れた頃に(しかも、一番気合いを入れて大好きなものを撮ったときなどに)ときどき起こったりするようです。こういうAV人生の荒波は、まさに自殺や失踪をうながしかねない絶妙のタイミングで、ここぞとばかりに人の弱味をえぐるように押し寄せてくるものなのです。

 これに対して、どう対処すればよいかと言うと、それはただ「気にしない」ということしかありません。まぁ、仕事ですし会社での立場もありましょうから、鼻歌まじりで「俺は気にしない」なんて言ってたら本当にクビになってしまいますから、対策は真剣に考えねばなりませんが、気持ちの上では気にせず、自分の存在が全否定されたという風に考えないことです。ものすごくいいかげんなアドバイスのようですが、しのださんもご存知のように「いいものが売れない」なんて、よくあるどころか「当たり前」と言ってもいいことなのです。よくあることだから、いちいち衝撃をまともに食らっていたら、身がもちません。

 「売上」ということは、ひとつのゲームでしかありません。会社にとってはとてもゲームなんて言えないシビアな問題ですが、ゲームとしか言い様のない番狂わせもあるし、マジメにやれば売れるとか、作品の内容と売上が正比例するとか、必ずしもそういうものではない。マーケティングだとか言って頭にハゲができるほど悩んで悩んで計算して作っても、その通りにはいかなかったりして、またハゲが一段と大きくなったりすることもあります(※注・しのださんがハゲているという意味ではありません)。ただ、売れるものには何かしらの「キャッチ」が必ずあるのは事実です。キャッチを作るのには、ちょっと「人の悪い」「人を食った」「大胆な」部分が必要ですから、そのあたりのことがもしかしたらマジメそうなしのださんには難しいのかもしれません。

 「すごいうまい饅頭なら、絶対に売れる」ということはないですよね。すごいうまい饅頭より、空港とか駅で売ってるお土産用のパサパサの饅頭のほうが、ずっと売れていたりもするでしょう。そこで「饅頭ってうまくなくても良かったんだ」と思うかどうかは、作る人の考え方次第です。「うまいけど、こしあんではこのうまさがわかりにくいのかもしれない」とか、「うまいけど賞味期限が明日までというのは、ちょっとみやげものとしてはまずい」とか、「うまいんだけど見た目がジミすぎる(茶色の饅頭で、しかも焼き印がなく、直径が7センチもあってちょっと大味な感じ)」とか、いろいろ理由は考えられるし、「でも、うまいものを作るんだ」と思うか、「だったらそんながんばってうまいもの作らなくてもいいんじゃないか」と思うかは、その人次第です。

 「いいものでも売れない」から、「内容なんてどうだっていいんだ。じゃあ、テキトーなのを作ろう」と、しのださんは思えますか? たぶん思えないですよね。「これがエロいんだ」という確信が自分の中にあるから、「どうせ一生懸命撮っても売れないなら、テキトーにセックス撮ってりゃそれでいいんだ」なんて、思えないのでしょう。そういうふうに手を抜くことは、しのださんにとっては「イヤなこと」であり、「苦痛」ですら、あるんじゃないでしょうか。

 しのださんは、監督です。監督は、お客さんの奴隷でも下僕でもないと私は考えています。いいものを出して、見せて、お客さんを喜ばせる、それが監督にとって、ひいてはしのださんにとっても喜びなのではないでしょうか。だったら、もう、絶望することをあきらめるしかない。お客さんに喜んでもらうことにしか、しのださんが監督として幸せになる道はないのです。「売れそうな、でも自分の意思ではないものを撮る」ことも、「売れなくても、自分がいいと思ってるものを撮る」ことも、しのださんにはきっと苦痛なのでしょう。自分のエロを出せないことも苦痛だし、出しても誰にも伝わらず、喜んでもらえないことも苦痛なら、「自分のエロを出して、それを伝える」ことしか幸せになる道はないと、私は思います。

 それは、ものすごくタフな作業です。試行錯誤をイヤになるほど繰り返し、それでも確かなものが何かなんて、誰にもわかりません。けれど、目指すものがそこにしかないのだったら、もうやってみるしかしょうがないです。他に面白いことがあったり、好きな仕事ややってみたい仕事があるなら別ですが、ここにしかないのなら、たとえ失敗しても何度でもやるしかない。諦めて面白いものを作ってください。しのださんの作品は、私にとって、観ていてセックスしたくなる作品でした。作品は一生懸命撮ってほしいと思いますが、それにしてももう少し肩の力を抜かないと、もちませんよ。もっと人気が出たら、もっといっぱいワルクチを言われますし、もっといっぱいヤなこと2ちゃんねるに書かれますから、ある程度「気にしない」能力を身につけることが、長生きのヒケツだと思います。しのださんが逆境に燃えるタイプなら別ですが。