「少女は挿入される生き物」第二回

(5/26のつづきです)

 遠藤遊佐さんがご自身のサイトで、やっぱり面白いながらももやもやとした感想を述べられていますが(http://d.hatena.ne.jp/endo_yusa/20060503)、私はこのもやもやの一つの原因は、エロ右派・エロ左派の対立に関するもやもやだと考えています。

 って、右派とか左派とかって私が考えただけの名称なんですが、「AVは優秀なズリネタであれば良し! 抜き挿し至上主義! ハイルデジモザ! 余計なシーン入れるぐらいなら一秒でも多くハダカやエロい行為を収録せよ!」というのが、エロ右派。それに対して「エロにはセックス以外の何かがあっても良い。抜き挿しだけ撮ってそれがエロいと思ってんのか! セックスにまつわるもんってもっといろいろあるだろう! 気持ちだって動くだろうがよ!」というのがエロ左派。

 AVをオナニーに使っていて、飢えをしのぐようにAVで性欲を満たそうとしている右派には、左派AVは「余計なモンばっか撮りやがって! おま○こ撮れ! おま○こ!」ってものだし、左派好きの人にしてみれば「ただヤッてるだけのビデオ観て何が面白いの? ぶっかけとかどこがイイわけ?」ってことになる。もちろん、AVの世界のお客さんの9割方は右派であり、大切なお客様は右派であると言ってよい。左派の人はAVをそれほど日常的に買っている人ではない場合が多いし、買っていてもそれは市場全体からするとごくごく少ない数字になるであろうから、あまり顧客の頭数としては数えにくい。

 私は、ドキュメンタリー作品で有名なハマジムのことなどをよく書いているので、まぁ立場的に「極左」と見られがちです。そしてそれ以前に、女というだけで「左派」と見られる風潮もある。女はAVなんか観てオナニーしない、AVは男のために作られているものだから女のエロのツボを刺激しない、という考え方がまだ根強くあります。その度に、レディコミに欲情できず男性向けエロマンガやAVにしか欲情できない自分のことを、私はどう説明したら良いのか途方に暮れるのです。自分の性別は女だけれど、女向けのエロに全然反応できないという人間が、いったい多数派なのか少数派なのかもよくわからない。だから「女性ってどんなAVが好きなんですか?」と聞かれても、うまく答えられないんです。自分の好きなAVなら言えるけど、他の多くの女性が自分と同じ嗜好をもっているかはわからないんです。自分が女の中で「はぐれもの」だという意識があるから、「普通の女の人の性欲」のことは、よくわからない。

 断っておくと私は「左派」ではありません。私は仕事で、「右派」の作品については書く場所があったから、ネットでは「左派」について書いていただけの話で、「右派」の良さがわからなければレビューなんか書く資格はないし、実際に自分が「使う」AVは、「右派」の方が多いんです。しかもなんかもう、微妙に美人じゃない女が、据え置きカメラの映像の中でテキトーなセーラー服とか着て、地方のラブホみたいなさびれたとこであんあん喘いでいるような、右派の中でも思想とか主張とかグダグダで統制も取れてないような感じのヤツを「使っちゃう」ことが多いです……(これは半分は職業病で、知っている女優さんや知っている監督の作品を使うのに照れが入っちゃう、ということもあると思いますが)。でも、では「右派」かというと、それもそうとは言えない部分がある。

 じゃあ、どういう立場なのかと言うと、私は「質」を見るという立場でいたいのです。右派でもデキの悪い右派は、右派としての機能(見ている人を興奮させる)を果たしてないし、左派のデキの悪いヤツなんかは、時に制作者の自己満足に陥りすぎててヘドが出そうに最悪です。そのどちらも私は嫌いだし、そういうものがある以上、自分を右派とも左派とも定義できない。「こんなもん好きだと思われたらイヤだ」という気持ちがあるからです。ちなみに「質」という意味の中には「ヘタなのにむしょうにエロい」とか、「ざっくりした作りなのにめっぽうエロい」なども含まれます。単純な上手い下手の問題じゃない。上手いだけで全然セックスの匂いがしない作品と、べつに上手くないのに下半身がむしゃくしゃするあの感じがしっかり捉えられている作品と、どっちが質が高いかと言えば、私は後者だと考えます。

(明日につづく)

★タイミングよく、ドグマの二村ヒトシ監督が、同じくこの作品についてのレビューを書かれています。
http://www.dogma.co.jp/NIMURA/DIRECTOR/DIARY/index.cgi

二村監督の「モテるための哲学」(幻冬舎文庫)という本がありますが、これもすごく面白いです。電車男ブーム時の「キモオタだってオシャレすれば女とつきあえる」という考え方に「そんなわけねーだろ!」と思った方は、とくに読んでみるとよいと思います。服だけ変えたって、ただ勇気を振り絞ったって、そんなことでモテたら世話ねーよ、という人が読むべき唯一の「モテ本」です。別にみんながみんなモテなくても(モテたくなくても)いいんですが、人とコミュニケーションを取る上で非常に大事なことがたくさん書いてあります。対人関係が苦手な人(俺だ……)には、グッサリ来る部分もありますが、痛いだけに効くと信じたいです。