「松本タクシー」(松本和彦監督・ソフト・オン・デマンド)

 「ディスコ・ホスト・AV」という経歴を持ち、童貞魂やマニア魂を重んじるセルAVの世界では今も昔も浮いた存在である松本和彦監督。生まれた時からセックスに不自由したことなく、よってオナニーをする習慣がないという驚くべき種族であり、ハデで華やかな異端児かつスター監督でもあった松本監督が、ナンバーワンAV監督を決めるD−1でまさかの下から数えた方が早い順位を取ってしまったのは昨年のこと(弟よ、「ざまー見ろ」とか言うもんじゃありませんよ)。年明けすぐに取材をお願いして、その翌月でしょうか。「松本和彦が秋田に合宿免許取りに行ってる」というウワサを聞いたのは。「合宿免許って、なんで?」「いや、バスとかタクシーとかのAV撮りたくて、免許取りに行ってるらしいんだよ」……姉ちゃん、あまりの思いつきと行動力に笑いが止まりませんでした。思いつくまでなら他の人だって思いついたかもしれないけど、秋田に合宿免許は……行かないよね? 不可能を可能にする男、ではなく、バカバカしいことを本気で実行する男、松本和彦のリベンジ・マッチの始まりです。

 で、出たのが「松本タクシー」。「女性専用・無料」とデカデカと書かれた個人タクシーに、長髪日焼け顔の松本監督が運転手姿で乗り込み、終電後の街をフラつく女性を乗っけて出演交渉開始。「チラッとパンツ見せてくれませんかね〜?」と下手に出つつ、「ダメだったらここで降りてもらうし、見せてくれれば家までちゃんと送るんで」とビミョーにオドす。女に関しては手練れの松本監督だが、途中「キモッ」「ありえねー」「キマズイ」「ムリムリムリ」と単語でしか会話が成立しないギャルとの戦いで苦戦を強いられる。「援助で3でどう?」と持ちかけるも「3? ありえないね。3なんて何も遊べないじゃん」と別にそんなカワイクもないくせに(注・あくまでも雨宮主観の判断)19歳だというだけで当然のごとく強気にふっかけてくるが、交渉成立し松本監督の「すげーキレイな胸してんね〜。言われない?」っていうベタ誉めトークにすっかりノセられ、だんだん嬉しそうな顔になってしっかり感じちゃうあたりはさすが女殺しの手腕が光る。交渉中なかなかウンと言わない二人組を乗せたまま墓場に乗り入れ「ここ出るって評判なんだよね。ダメならここで降りてもらうけど?」という小学生のようなオドしをやってるのには思わず笑った。酔っぱらってユルユルになったOLとの甘〜い交渉も面白いけど、それより40代に突入した松本監督が果敢に若いコを口説く姿がタイヘンそうで、そこはかとないおかしみがある。昔は顔と口だけでいくらでも女転がせただろうに、オッサンの年代に突入して状況がキビしくなっちゃって「キモイ」とか言われてんのに、それでも退かずに口説き続けるところがスゴイし、おかしい。制服の似合わないミズっぽい顔にモテ男の悲喜こもごもな感じがビミョーに漂って、「苦労しているイイ男」フェチにはたまらんものがある(人気にかげりの出てきた年増ホストとかにつぎこんじゃうような感じか……?)。

 セックスは車を停めて、車庫で男優とヤるのですが、タクシーなら助手席に乗せて運転しながらフェラチオとか指マンとか、走ってる車の中で見られそうになりながらセックスとか、スケベな人間なら必ず思いつくような行為がまったく入っていないのも、さすがオナニーを知らない男ゆえなのか……。いつものことながらセックス描写は軽めでアッサリ、食い足りなくも感じるが、ベタ誉め攻撃が効いてるのか、セックス始まると女のカラダがしっかり開いちゃっててちゃっかり感じてるので、ノリは軽いながらもエロいっちゃあエロいです。