独占欲

★えーっと、すみません。前のエントリで服についてさもかしこぶったことを書いておきながら、週末は母と祖母が上京し、日曜は買い物三昧。となりました。しかも三十路にもなって「何か好きな服買っちゃあよ」などと言われて、表参道ヒルズのパトリツィア・ペペ、そして実は先週も清水の舞台から飛び降りる思い(クラシックな慣用句)でカードを切った高島屋・魔の8階、イランイラン(まさか新宿南口に上陸するとは……)で再び普段の私の生活のTPOにはまったくそぐわない、どう優しく見積もっても少々派手すぎるきらいのある服を買ってもらったりしてしまい、このオールドでスモールなアパートメントにお住まいの女性にはちょっと不釣り合いかと思われるクロゼットの中身ができあがってしまいました。イランイランの青柳龍之亮(※5/30訂正。デザイナーの名前おもいっきし間違ってました! すみません……。間違って書いてたのはなんとミュージシャンの名前でした。名字だけ同じなので途中で混同したと思われます。申し訳ない)よ、私の血税(税じゃないけど)を吸って大きくなれよ!


 しかし、おかげで減量に力が入りそうです。先週は目の前で新発売の苺とラズベリーチョコ(ロッテがリンツのパッケージを思いっきりパクッてるやつ)を知人が美味しそうに食べていて「お、お願い……ひ、ひとくちだけ、ください……」と言い、さらにそのおかわりの一口をねだる。という意地汚い行動に出て「なんだか減量中の力石に水を与えている気分だ」と言わしめていたりしたのですが、もーチョコは食べない! とらやカフェに行ったときも大好物のあんぱん(とらやカフェのあんぱんはすごくおいしいです。あと、東方美人のミルクティーがおすすめです)も食べずに無事生還しました。けど、体重っていきなりは減らないんだね……。やっぱりジムなどの施設に通うのがいいのかなぁ。本当は家の近所の公園を毎日走ってこの日記も「毎日jobjog日誌」(東良美季さんのサイトです。http://jogjob.exblog.jp/)にしたいところなんですけど、どーすっかな。走るとさらにお腹がすいてどんどん食べて、疲れて昼寝して気付いたら夜になってそうで怖い! jobがおざなりに! jogも10分ぐらいが限界なのに……。弟よ、おまえの姉の日記は「買い食い日誌」に近いことになってるよ……。


★こんなところに! こんな感想が!
http://d.hatena.ne.jp/zoot32/20070524

 私はこのDVD、持っているのですが、知人が数名出演しており、すごーく接吻が見たい人と、あんまり接吻が見たくない人が両名出ていて、知人で欲情するのもバツの悪いものですし、知人のそれほど見たくない痴態を見るのもなんだしで、なかなか見る勇気が出ません。ひとりで見るのはちょっと。でも誰かと見るのもちょっと(どこらへんに興奮しているかバレそう)。という複雑な作品であります。見たい……。でも見たくない……。


★AVメーカーDogma主催、AV監督ナンバーワンを決めるイベント「D-1 CLIMAX」の女優オーディションに行ってきました。このイベントは今年で三回目で、私はこの女優オーディションにこれまで来たことがありませんでした。はっきり、行きたくなかったんですね。なぜかはわからなかったけど、その理由が行ってみて初めてわかりました。その理由とは「独占欲」です。


 D-1には、毎回、私の好きな監督が何名か、出ます。オーディションにはもっと大勢の、気になる女優が出る(今回は参加人数62名でした)。朝の9時半から、夜中の2時までかかったこのオーディション&監督面接を見ていると、あたりまえですがそのことを書きたくなるんです。


 たとえば、最初から松野ゆいのことしか見てなくて、彼女しか指名しなかったK*WEST監督や、ビーバップみのる監督を逆指名した大沢祐香や、そういうドラマのことはもちろんですが、「今まで椎名りくというキャラを演じていて、本当の自分を出してみたい」と泣きながら誰にも選ばれなかった椎名りくや、出てきてあんなことまでしといて選ばれなかったたくさんの女の子のこと、全部、ひとりずつ話をして、書きたくなる。


 私の、職業ライターとしての欠陥は、この「独占欲」で、好きになると周りが見えなくなることで、冷静に対象を見つめられなくなることで、それはつまりよく言われる「ロッキング・オン文体」というような、思い入れだけで突っ走って誰かのことを書いてしまう。というものです。突っ走るのは、気持ちがいいんです。確かに、気持ちが良かった。ほんの少し前までは。ところがだんだん私はそれが気持ちよくなくなってきていて、そうすると突っ走ろうとする自分とそれを掴んで止めている自分とせめぎあうような感じになります。


 一番それが強く出たのが、[JO]STYLE監督の面接の時でした。私は[JO]STYLE監督のファンで、監督の「ザーメンby女教師」が大好きで、その作品で初めて「ぶっかけ」というものに感じる気持ちがわかって、それ以来[JO]STYLE監督の、形式的にはSMではないのに精神的にはSM以外のなにものでもないという作品に惹かれ続けています。


 監督の女優面接を横で聞いていて、ドキドキしました。「僕はあなたのこと、汚しますよ。ただ、すごくキレイに汚します。あなたから見て『ひどい人間だ』と思われるようなこと、しますよ。いいですか? 僕の中の真っ黒なものを全部ぶつけますけど、それ、受け止めてくれますか?」。


 誰かにそんなことを言われて、いいなあという嫉妬の気持ち。「汚されたい」という、自分の欲望。その欲望や愛情が、現場だけの、一瞬だけのものであることの残酷さ。おそらく、自分が女優だったらその部分が、もっとも耐えられないだろうと思う。胃がきりきりと痛くなった。


 こういうことを言われると、たまらないんですよ。誰よりも誰よりも、この人のことを理解したい。理解して、誰よりもこの人のこと、うまく書きたい。と思う。それが独占欲じゃなくていったい何なのか。ネットでものを書いている、おもに批評というものを書いている人の情熱と欲望の多くは、そこから派生したものなのではないかと思う。誰にも、わたしたくない。誰にも、ゆずりたくない。文章で本質を突くことで対象を自分のものにしたい。という欲望。文章で書けることなんかほんの一部で、誰かが誰かのことを、本当に理解できているかなんて誰にもわからないのに、それでも、その人の一部を文章で捉えて自分の血肉と混じり合わせたい。という欲望は、どうしようもなくおさえがたいもので、息が苦しくなる。見なければ、知らなければ、そんなこと思わないで済む。だから来たくなかったのか、と思いました。


 もちろん、文章で誰かのことを独占することなど、できません。そんな動機で書かれた文章は不純かもしれない。ただ、例えば中田英寿のことを書くときの村上龍の文章のようなものは、私は、文章で誰かの一部をたしかに捉えて独占することに成功している、と思う。


 独占欲にととりつかれながらまともに文章を書こうとするのは難しい。最高に苦痛で、最高に快感だけど、それはとても疲れることでもある。少しでもバランスを崩せばものすごく失敗した文章が出来上がるし、そういう失敗を私は何度もしていて、対象を完全に自分と混同したり、重ね合わせたり、そういう失礼で間違ったことをしてきた。その、独占欲だけの地平から抜け出そうともがいている状態でも、やはり最初の動機は興味であり、ほとんど恋愛に近い「気になる」感じであるのは変わらなくて、その対象が見つかるのは、嬉しくも、苦しい。いまは誰にもそういう気持ちを感じたくない、という気持ちもある。そういう興味を持つことは、自分のもっともやわらかい場所を開け放つようなことで、その瞬間に傷だらけになる可能性は、たくさんある。


 JOさんは面接の途中、ふっと「こんな恥ずかしいことに、こんなに情熱傾けてる世界もないですよ」と言った。ほんとだよな、と思いながら、その言葉が「こんな業界、所詮どうしようもないもんですよ」でもなく、「こんな仕事でも、がんばれば胸張れる仕事なんだよ」でもなかったところがとても良くて、ほっとした。


 全裸の62人の女が、誰かに選ばれていく、という光景がきつかったのも、行きたくなかった理由のひとつだったかもしれない。もし、自分がステージに立って選ばれる側だったとしたらと思うと、ぞっとする。私は女優ではないから、本当にはその気持ちがわからないのかもしれないけど。裸の女が「エロアピ−ルをしてください」と言われ、エロアピールなんて「俺はセックス上手い」と言ってる男みたいなもんで、アピールできるようなことではないかもしれないのに、それをやらなきゃいけないという光景は、ものすごくこっけいであり、シュールであり、でもその中でも輝きを放つ女。というのがやっぱりいたりして、瞬間瞬間で場内の空気の色が塗り替えられていくような光景でした。


 帰りに、交差点の信号でオーディションに出ていた女の子と一緒になって「あ、さっきオーディションに出てた……?」「はい、そうです」「大丈夫? こんな時間になっちゃって、帰れる?」「はい、ここでタクシー拾って帰ります。大丈夫なんですか?」「私は知り合いに迎えを頼んだから。あそこに来てる」「そうなんですね。じゃあ」「お疲れさま」「お疲れさまです」と言って、別れた。本当は「私はあなたは選ばれると思ってたんだけどね。でも、きっとまたチャンスがあるから、がんばって。あんな場所に出てこれるだけで、あなたはすごいと思うよ」とか、そういうことをちょっと言いたい気持ちはあったけど、なんだか照れくさくて言えなかった。あなたは、良かったよ。選ばれなかったけど、そんなことで落ち込む必要はないんだよ。ただ、今日の監督の撮りたいものと合わなかっただけ。あなたは、かわいかった。大丈夫。でも、ただ「おやすみなさい」と言った。