15文字の永遠

・先日、行った美術館に子ども向けのコーナーがあって、そこのパンフレットに「つり目の女の子の作品でおなじみ、現代作家の奈良美智さんによるゼロックス版画です。」と書いてあってガーン! と衝撃を受けた! 「つり目の女の子の作品でおなじみ」! たった15字ですよ。それだけで「あ〜、あの人ね!」とすぐわかり、かつ知らない人にも「つり目の女の子」で奈良美智の作風が「かわいい」ことまでなんとなく伝わりそうなこの、簡潔かつ匂うような15文字の素晴らしさよ! もう何度も声に出して読んじゃったね「つり目の女の子の作品でおなじみ」! この文章は目標だなぁ。気持ちよすぎますよ。


・それ以来、すごいと思うものについてたった一文で説明するとしたらどう言うか? をけっこう考えてしまうのですが、なかなか「これぞ」というものに思い至りません。「自分はここまでわかってんだ!」というひけらかしの気持ちが、簡潔な表現を不可能にしている気がします。

 たとえば上村一夫なんて、自分視点から書こうとすると男女の愛の苦悩がどうのとか女の心がどうのこうのとか書きたくなるんですが、たぶん「つり目の女の子」方式で書けば「和風美人の泣き顔のマンガでおなじみ」ぐらいには短くできる気がするんですよ。でも「構図がスタイリッシュ」とか入れたくなるんだよな……。でもわかりやすさで言えば「スタイリッシュ」はアウト。7文字もあるし、「つり目の女の子」の、すぐに記憶してしまうほど簡潔なインパクトには遠く及びません。

 思い入れのないものについてのほうが、これはけっこう思いつきますね。「からだに悪そうだけどなぜかおいしいジュースでおなじみの○○○○○」とか、悪口をまぜたほうが考えやすかったり。これも、「つり目の女の子」のキュートさには遠く及ばない……。「つり目の女の子」だけでもう今までたいして何とも思ってなかった奈良美智のことさえちょっと好きになりそうだもんな。すごいなとか、大したもんだなと思ったことはあるけど、「好き」とは思わなかったのにね。もう帰りバッヂ買いそうになってるもんね。「そうだ! つり目の女の子はかわいいよな!」とか思っちゃってるもん。こわいねキャッチコピーって。

 自分の好きなものについて、15文字で説明してみよう。という課題は考えると面白いので、私が教授とかだったら課題に出してみたいです。