CHANEL MOBILE ART

★『CHANEL MOBILE ART』に行ってきました。
CHANEL MOBILE ART』というのは、シャネル主催のアート・プロジェクトで、どういったものかというと移動式のパビリオンが香港、東京、ニューヨーク、ロンドン、モスクワ、パリの6都市を巡るツアーのことで、それが5月31日〜7月4日まで、東京の国立代々木競技場の中に建てられているのですね。


 私はこの計画をファッション誌で知ってずっと楽しみにしていたのですが、入場には日時指定の予約券が必要で(ジブリ美術館のように、時間ごとに入場します)、これは無料なんです。無料のチケットをぴあに行って発券してもらい、何も払わず帰る。ちょっと変な感じでした。


 私の一番観たかったものは、ザハ・ハディドの設計したパビリオンそのものだったのですが、中も予想以上に面白かったです。まず、入場すると一人ずつヘッドフォンとMP3プレイヤーを装着させられ、館内ではヘッドフォンから聞こえるアナウンスに従って行動する。これは、館内が意外と狭いため、一カ所に人がかたまって展示物が見られないといった状況を避けるための策だと思うのですが、このアナウンスがちょっといい。


 まず、座ってMP3プレイヤーのスイッチを入れると、少ししわがれた老女の声で「私はあなたを、苦痛と快楽の狭間でずっとお待ちしておりました。私の幻想のすべてをお見せする必要があるのです。さあ、立ち上がってください」という声がする。そして、この声の指示する通りに立ち上がり、歩いていくわけなのですが、それぞれの作品の前でまた、アナウンスがあるわけです。作品についてのアナウンスなんて白けるだけだとお思いかもしれませんが(実は私も思ってたし、こういう類いのアナウンスの装置を借りたことはなかった)これは強烈にイカしてました。


「さあ、この常規を逸した世界に身を任せてください。いい感じですから……」「さぁ、次はぐっと真面目にいきましょう。セックス。ああ、セックス。あらゆる形態のセックス」「私たちは、みんな豚です」って、こんなんばっかだよ! 耳元で老女の声で「セックス! ああセックス!」「私たちはみんな豚です!」て! 豚! セックス! 金! 企業イメージを守るとかそういうせせこましいことは考えずに豚! セックス! いいですな〜。


 日本から参加したアーティストで知っていたのは束芋アラーキーだったのですが、束芋の新作は今までで一番好きだったし、もう今までさんざん見飽きるほどに観ているアラーキーの作品も、ちょっと違うふうに見えた。ほかに良かった作品は、鏡の部屋でわたの玉が発光するやつ、水面に景色が映るやつ、タイルのやつ、などなど。


 シャネルのモバイルアートは、今の世界のアートシーンの中では、最先端だとか強烈に新しいとか、そういうものではないのかもしれないと思う。けれど、非常に楽しくて、楽しませるための趣向が凝らされていて、私は好きだった。ポップな雰囲気があって楽しかった。


 ザハ・ハディドの作ったパビリオンは、外側の造形もすごいけれど、内側を見るともっとすごい。いったいどこから考え、どこから作ったんだろうと思う。かたつむりのようだ。ヘッドフォンを返却し、会場を出ようとすると、全員にこのモバイルアートの立派なパンフレットが手渡される。貧乏人だから何度でも言うけど、これも無料で! だよ。グッズの販売なんてひとつもない。


 私はその足でシャネルのお店に行き、シャネルのピアスを買いました。貧乏人でもちらっと男気見せますよ。愛するカール、どうもありがとう。私がピアスを買ったところであなたはうぶ毛に風が吹いた程度にも感じないだろうけど。ほんとはモバイルアート限定のシャネルバッグを買ってあげたかったけど! でも世界中のどんな優れた、どんな洗練されたデザイナーよりも、派手で過剰で最高なカールのことが好きですよ。


 モバイルアートは、今から入場するのは難しいかもしれませんが、原宿駅から近くの国立代々木競技場のオリンピックプラザに建っているので、お近くをお通りの際にはぜひ、外観だけでも観てみてください。UFOが不時着したみたいな感じですよ。夜はライトアップされて、さらに今にも飛び立ちそうです……。