『青春少年マガジン』小林まこと

★読みました。いやー、いい本読んだなぁ。


 これは『1・2の三四郎』や『ホワッツ マイケル?』で知られる漫画家の小林まことさんが、1978〜1983年の、自分の若かりし頃の『少年マガジン』についての思い出を描いたマンガなのですが、冒頭はこんなふうに始まります。


小林まこと「なに? 週間少年マガジンが創刊50周年だと!?」
編集者「はい!! おかげ様で。つきましては小林まこと先生が『1・2の三四郎』を描かれていた1978年から83年までの苦労話や、楽しかった思い出などを漫画で描いていただけないかと思いまして・・・」(句読点は私が入れました)
小林まこと「楽しかった思い出など、ない!!」


 このあとに「下手したら死んでるところだったんだぞ、この野郎てめえ!!」と罵倒が続くのですが、ここからはじまってゆく物語が、非常にいい。


 この「下手したら死んでるところだった」ことが、嘘でも何でもないシリアスな時期があったこと、本当に苦しい出来事があったことも描きつつ、忙しい中でムチャやりながら一緒にマンガを描いてがんばっていた仲間たちとの友情、競争と狂躁、そういうものが短い中にキュッとコンパクトに詰まっています。


 これは本当に、小林まことの力量のなせる技だと思うのですが、こういうことを、楽しいことも苦しいことも描いて、それが「マンガ業界批判」でも「編集部批判」でもなく、「恨み節」でももちろんなく、読んだ側をドーンと落ち込ませるわけでもなく、独特のニヤリとするようなちょっと皮肉っぽい「笑い」のセンスでさらりと読ませてしまうのは、すごいと思います。


 マンガや出版の業界の仕組みに、問題がないわけではもちろんないし、それが人をどれだけ追い込むか、小林さんは知っている。仲間への愛情もあり、編集者への愛情もあるけれど、小林さんの、第三者的にものごとを見ることのできるクールな視点があってこそ、これだけ読みやすく、完成度の高い作品になったんじゃないかと思います。


 こういう「マンガの世界を描いたマンガ」は、しばしばその内容、そこに描かれている事実が取り沙汰されることも多いですが、このマンガはただ「作品」として、素晴らしいと思いました。「感動するから」とか「マンガ業界のすごいことが描いてあるから」とかじゃなく、「面白いから」、この作品をみなさんにすすめたいです。


 こういう視点でものが描けるようになるまで、どんなふうに小林さんは、揉まれてきたんだろう。このマンガの「語るところ」と「語らないところ」、「語りすぎないところ」のチョイスが本当に大人で、そのシビアさが小林さんの、ただものではないマンガ家としての才能を語っているように思える。


 人によっては「こんなにヒドイ目に遭った!」って話になってもおかしくないのに、「楽しかった思い出など、ない!!」って最初に茶化しておいて、ふざけるところは徹底的にふざけて(帯の折り返しの部分とか、笑いました)キツい事実も描きながら、単なるあったかい、いい話にもしないよ〜というスタンスが、遊びがあって、軽くて、すごく粋でかっこいいと思いました。もちろん愛情もあるんだけど、それをさりげなく描くところが、とてもいい。「あいつが好きだった」なんて絶対描かないやり方で愛情を表現する。それがマンガだ! という心意気を感じました。

青春少年マガジン1978~1983 (KCデラックス 週刊少年マガジン)

青春少年マガジン1978~1983 (KCデラックス 週刊少年マガジン)