★『ビデオメイトDeLUX12月号』(コアマガジン)で、佐伯奈々ちゃん引退インタビューの記事を書いてます。自分の仕事は本になって読み返すのがいつも怖いですが、この原稿だけはそういうことよりも「奈々ちゃんの引退を取材できて本当に良かった」という気持ちのほうが、ずっと勝ります。


 佐伯奈々ちゃんには全部で3回取材をしました。最初は2007年6月、撮影現場の取材(そのときのことを書いたレポートがweb上にまだあります。http://www.dogma.co.jp/htmls/d-1/report/jo_report.html)で、そのときに「いつかインタビューさせて欲しい」と言って、なかなか企画の通るタイミングがなくて、やっとできた最初のインタビューが2009年3月(これは『SMネット』に掲載されています)。今年の3月で、私のこと覚えているかな〜と思いながら行ったら「初めて会ったときに『インタビューしたい』って言ってくれたでしょ? 奈々ががんばってればいつかそのチャンスが来るってずっと思ってて、今日は夢がひとつ叶った」と最初に言われて、お互いに目はうるみ、心はガン泣きのインタビューになった。取材する相手が最初からこちらに心を全開にして無防備に言葉を、おそらくずっと心に貯めていた、普段は口にしない気持ちの入った言葉をしゃべってくれるなんてことは滅多にない。しかも、ずっと一緒にいたとか親密にしていたとかならともかく、一度会っただけだったのに。


 でも、私にとって佐伯奈々という女優さんは「一度会っただけ」の女優さんではなくて、知れば知るほど、見ているだけで涙が出そうになる、それぐらい私の感情を揺さぶってくる女優さんだった。それぐらい豊かな、半径5メートル以内にいると感情の震動が伝わってくるような感受性のある人だと思った。いつも「勝手な思い込みや勘違いで彼女のことわかったような気になってないか? 自分の中で勝手に自分の思う『佐伯奈々像』を作り上げて、それで盛り上がってるだけじゃないのか?」と自問自答しながら、それでもゆきすぎた原稿かもしれない、と思う原稿を書いてきた。


 引退についてはもうとっくに彼女のブログで、彼女自身の言葉で彼女の気持ちがしっかりと書かれていて、それは忘れられないとてもいい文章で、ファンの人にとってはこの言葉がいちばん大事だし、私が取材をしても余計なことかもしれないと思った。あの文章を読んで「なんで引退しようと思ったの?」って、聞けないよ。ちゃんと書いてあるし、読んでわかんないんだったら聞く意味もない。でも、何かしたかった。最後の、引退のインタビューは絶対する、何が何でもする、と心では決めていた。会わないで自分は終われないっていう、動機はそれだけだったと思う。


 引退インタビューは笑顔で終わって、まだ12月までは活動を続けるって知ってたから、これが最後の別れになるっていう気持ちも薄くて、もう一回ぐらい会えるだろうって思ってたけど、レビューのために『雌女anthology』を見ているときに、その作品の中での佐伯奈々があまりにも良くて、いろんな設定のキャラ全てにハマる演技をし、全てのツボを押さえたエロさを見せていることに感動した。私は、AV女優の「実力」ということについて麻美ゆまさんを相当すごい人だと思ってるのだけど、佐伯奈々はAVというフィールドにおいて、麻美ゆまと同等かそれ以上になるような実力を持っていたのだと感じ、そこでやっと「引退」という言葉の重さに気づいて、泣いた。引退って、これがもう観られなくなることなんだ。会えなくなるとかなんとかそういう問題じゃなくて、「AV女優・佐伯奈々」をもう観られなくなることなんだと、やっと実感がわいてきた。「佐伯奈々本人」のことがずっと気になってひっかかっていたし、そこのことを書いていたけど、「女優・佐伯奈々」っていうのは、誰がなんと言おうと才能があって実力があってキラキラ輝いているスターで、インタビューしようが何しようが絶対に手の届かないもののように思えた。もったいないと心から思ったし、これを観たらわかるとかわからないとかじゃなくて「なんで引退するの!?」って、一も二もなくただ言いたくなった。話いっぱい聞いて、納得してても、言いたくなった。言わずにいられないくらい惜しいんだと、それぐらいあなたにはすごい魅力や実力があるんだと、言いたくなった。


 誰にでも、「一生忘れられない女優」というのはひとりぐらいいるだろう。私にとっては佐伯奈々がそのひとりで、多くのファンの方にとってもそうだと思う。こんなこと言うと野球選手の引退みたいだけど、ほんと夢をありがとうとかって、AVを好きじゃない人が聞いたらばかみたいなことを思う。夢だけじゃなく、たくさんの作品で不意に泣いたり、感情をむき出しにしてAVと真剣に向き合ってほんとうの「裸」を見せてくれた、そのことにもありがとうと言いたい。


 こんな気持ちをおしえてくれてありがとう。ファンの気持ちって、片思いの恋愛のようだね。一緒にいられなくても、遠くでも、あなたがいつも幸せであるよう祈るっていう。多くのファンのみなさんとともに、そういう気持ちをささげます。