★母が東京に遊びに来たときにQ-Potのお店に連れていったことがある。「かわいいねー」でそのときは終わったのだけど、Q-Potのアクセサリーはお菓子をモチーフにしたとてもかわいらしいもので、三十路の私ですらたまに「こんなん私(の年齢で)つけてていいのかしら」と思うくらいなので、母もそれを「つけよう」とは思わなかったみたいだった。


 冬になってQ-Potの付録ムックの第二弾が出て、ビスケットの形(に収納される)のエコバッグだったのがかわいくて母に言うと、母は近所のコンビニや書店を探しまわったのに見つからなくて、結局第一弾のチョコレートのエコバッグをやっとTSUTAYAで一冊だけ見つけて買ったと言う。母が住んでいるのはかなり田舎なので、発売日が遅れてるのかな? と話し合ったのだけど、それから数日探している様子だったのでamazonで注文して送ったらとても喜んでいた。


 母はめったにものを欲しがらない。私たち姉弟が小さいときや学生だった頃はそれはそれは切り詰めて生活していたし、今は家も買って家計は落ち着いてるはずなのに、たぶん老後のこととか考えてるんだろう。無駄遣いをしないし、服やアクセサリーもほとんど買わない。年に一回だけ東京に遊びに来るようになったのも最近だ。それも絶対に会社を休んだりしないで土日の強行軍で来る。


 母の携帯はdocomoで、Q-Potの携帯が出てることを知ったら、めずらしくそれが欲しくなったようだった。東京ではたぶん即完売だろうなーとふんでたし、私は携帯がdocomoではないしdocomoにする気もないので考えてなくて発売日も知らなかったが、母はそれを発売後に探し始めたらしい。田舎だからもしかしたら残ってるかも、と思ったようだ。しかも田舎ではQ-Potの携帯は「なにあれ、趣味悪い」って言われてるらしく、それはもしかしたら残ってるかもねー、と話していた。


 母は次の休みに知ってるdocomoショップ巡りをしたらしい。全部完売でなかったそうだ。翌日会社の休み時間に、県内のdocomoショップに問い合わせの電話を十件以上かけていたら「たかが携帯ごときで」とみんなに笑われたそうだ。


 ヤフオクで見たらQ-Potの携帯は15万越えてた。もっと上がりそうな気配だった。


 母は「優柔不断でいつもすぐ買うかどうか決められないから、私が悪かった」と落ち込んでいて、たしかに一緒に買い物してると母はすぐ決めないので「後で来たらなかったりするよ、東京ではそんな感じだから、欲しいなら今買ったほうがいいよ」と私がたきつける係みたいになっているんだけど(実際後で来たらもうなくなってて、同じブランドの別のショップにまで行ったことがある)なんかさすがに悲しくなってきたり、よくわからない怒りがこみあげてきたりした。


 いい年してたかが携帯を欲しがって何が悪いんだよ、と思った。Q-Potのデザインがどんなに価値があるものなのかとか、わかってもらえなくてもいい。けど、「たかが」って言えるほど、あなたは「もの」を好きになったことがないのか。何軒も本屋をめぐり、docomoショップをめぐり、さらに電話で問い合わせまでするって、母には初めてのことで、そこまで母に気に入ったものができたというのが、そしてそれを自分の欲だけで手に入れようとしてくれたのが、私は嬉しかったのだと思う。


 「たかが携帯のことで、ってパパにも笑われてます」とメールが来たので「相談もせずに勝手に車を買い替えてくるのに比べたら(←まじですよちょっとうちの父……エネ物件かな……。悪名高いQ州男児なだけあるYO!)ケータイ買うぐらいがなんだって言っておけば?」と返しておいた。ほんと、母には好きなもののひとつぐらい手に入れてほしい。せめてQ-Potのストラップ買って帰省すっかな……。ヤフオクで落としてやりたいのはやまやまだがごめんまだそこまで稼いでないよー。田舎でいい年してなんだとか言われようがかわいいものはかわいい、好きなものは好きって楽しみを謳歌してほしい。わりと私に似ててフリーダムな感じの祖母ですら、田舎での世間体は気にするんだよね。「こんな派手なの着たら『そろそろ頭がアレなんじゃないか』って言われる」とか。私はそれが本当に悲しいし、自分も住んでたからよくわかるけどとても嫌だ。東京は東京で、また別の形の世間体合戦みたいなのがある感じはするけどね。所属しているコミュニティの中でスペックをはかられるような感じのアレがありますけど、田舎の圧力はほんときついからな……。「ブスだから手に職つけろ」と親戚に言われ続けた日々を思い出すなー。そして手に職つけたら「東京行ったから帰ってこない、結婚せず子供も生まない不良物件」扱い。あああああもう山ほどのQ-Potグッズで実家を埋め尽くしてやりたい。