K*WEST

 1973年生まれ、2001年ワープ入社。ということは、姉ちゃんがライターを始めたのと同じ年ですね(ちょっとビックリ。4年でもうワープの大黒柱になっているのに、それに比べて姉ちゃんときたら……)。姉ちゃんが初めてK*WESTという名前を意識したのは、ワープの中に若手監督の自主レーベル「DRAGONS GATE」ができた時でした。その頃からK*WEST監督は、痴女やレズなど現在の作風にもつながるような嗜好をベースにしつつ、新しいアイデアを次々と盛り込み、意欲作を次々と発表していました。そのあと、プロフィールを見ると「社会人として欠落があり、営業部に転属」と書いてあるんですが、社会人として欠落……? 社会人として欠落がある人を営業部なんかに回したら、よけい会社にとって致命的な事態を招きかねない気もしますが、まぁそうだったのかどうかはいざ知らず、その後まもなく監督に復帰。DRAGONS GATEを卒業し、個人レーベル「COBRA」を始動。現在はCOBRAレーベルに限らず、メーカーの目玉となるような作品を精力的に撮り続けています。

 姉ちゃんは、K*WEST監督の全ての作品を観ているわけではないし、姉ちゃんより年上の人なのに生意気なことを言うようだけど、DRAGONS GATEで作品を撮っていた頃は、やりたいことが先走ってうまく歯車が噛み合わなかったり、制作意欲はものすごくあるのに、それを形にするのに手こずったりしていたような印象がありました。才気もやる気もあるし、アイデアも良いのに身体がついていかないというか、そういうもどかしい感じがあった。

 それが、だんだん少しずつ変わっていった。具体的に言うと、女をものすごくきれいに、可愛く写すようになった。そして、きれいで可愛いだけじゃなく、切ない顔や、意地悪い残酷な魅力や、そういう微妙なものまでなまなましく撮ってしまうようになった。こないだ新作を観て、姉ちゃんはちょっと、泣きそうになりました。昔はギシギシ言ってた歯車が、今は音も立たないくらいなめらかに噛み合って、うっとりするくらい静かに回って流れていっている。これを一本だけ観た人には、わかんないかもしれない。けど姉ちゃんは、やりたいことがある人が、自分の居場所を作って、技術や実力を身につけて、やりたいことをちゃんと表現できるようになっていっているのを感じて、震えたよ。

 K*WEST監督の女に対する目線は、女にとってわりと心地好いものです。30年も男をやってれば、女のイヤなところやオソロシイところ、汚いところを垣間見る機会がイヤでもあると思うけど、そういうとこも含めて、「女」というものを肯定してくれているような感じがする。女を上から見て「キレイに撮ってやるぜ」っていう感じじゃなくて、なんかこう目線よりちょい下ぐらいから「やっぱ女っていいよなー、かなわねーよなー」っていう、好意と憧れが入り混じった視線で見ているような感じ。甘え上手っぽい目線です。姉ちゃんこういう男は正直言ってくせものだと思うんだけど、実際どうなんでしょう。

 姉ちゃんは、K*WEST監督の撮影現場に取材に行かせてもらったことがあります。ワープの現場には、ものすごいベテランの音声さんや照明さんがいて、そりゃあもう凄いベテランだから、いくら監督だろうが30の若造なんて、けちょんけちょんなんですよ。でも、ベテランのおいちゃん達にめたくそ言われながら頭を下げてるK*WEST監督は、かっこ悪くなんか、なかった。「そんなシーン要らないんじゃないの?」って言われても、頭下げてちゃんと撮りたいものを撮ってた。

 社員監督というのは、自分の撮りたい作品を勝手にいくらでも撮れる立場じゃない。「売れるもの」を求められるし、企画会議の段階でかなりの企画が切られる。「やりたいこと」を、やりたいからといってやらせてくれる環境じゃない。その「やりたいこと」に、よほどの魅力と説得力、観ている人間にその良さが絶対に伝わるという確信がない限り、「やりたいこと」なんか絶対通らない。そこで「俺の撮りたいものは、こんなのじゃない」ってヘソ曲げて帰ることは、誰にでもできるんだ。若造がベテランに怒られるなんて、そんなの、どこの世界にだってあたりまえのようにある光景だと思う。それにムカついてゴミ箱蹴って帰ることは、誰にでもできるんだよ。「売れるもの」に背を向けること、「抜ける」と言われるAVに背を向けること、そうすることで自分を守ろうとすること、それはものすごく簡単なことなんだよ。でもK*WESTはそうしなかった。自主映画作ってたような人なのに、そうはしなかった。そして、きっちりAVを撮っている。顔ではへらへらしてても、背中はすがすがしいくらい、しっかりしてる。

 まだ、ぎこちない部分はあって、そのぎこちなさが妙にナマっぽく見えることもある。そういうナマっぽさを残すために敢えて上手くならないようにしている、という監督さんもいる。けど私は、K*WEST監督にはあんまりそういう風に、思わないでほしい。洗練を恐れずに、徹底的に上手くなって、頭の中にある理想の女を、完璧に映像化してほしい。そこには、K*WESTにしか撮れない、あたらしいなまなましさがあると思う。今でも十分実力のある立派な監督さんに対してこんなことを言うのは失礼かもしれないけど、まだまだこれから先一皮も二皮も剥けて、ものすごい化け方をするはずだと私は、思っているんです。その時には、目が釘付けになって、見ながら身動き取れなくなるような、腰から脳天までゾクゾク突き抜ける興奮を味わわせてくれると思う。私はその瞬間を、心から楽しみに待っている。


 そして、K*WESTさん。あなたはカンパニー松尾監督の「パラダイス・オブ・トーキョー」を観て、「今の自分には撮れない」と日記に書いていたけれど、そう感じるあなたの感覚は、正しいと思う。私は、あの作品を観て絶望と焦燥を感じることのできる人間だけが、その先に進めると、思っているんです。あの作品はものすごいし、あれは松尾さんにしか、撮れない。1ミリも違わずに完全に、全てが松尾さんにしか撮れない。そういうものを作る人には、そういうものを作る人の、焦りや苛立ちがある。そりゃあ松尾さんは監督だから「俺の作品が一番だ」と思ってなければうそだと思うけど、それでも、他の人の作品を観て「これは俺には撮れない」とショックを受けて、自分の映像に苛立ちを感じることもあるはずなんです。1ミリも「違え」ない、自分の色があるがゆえの苦しみは、必ずある。あなたは、あなたにしかできないやり方で、いつか誰かをそういう風に嫉妬させ、自分が味わったような羨望や焦燥を、感じさせることができる。全く違うやり方で、あれと同じくらいのものが撮れる可能性は、誰にでもあるんです。あなたはその可能性のスタートを、もう切ってしまっていると思う。だから勝負に出るしかない。私はその勝負を、撮ってくれよ、という気持ちで見ているし、私だけでなく多くの人が、そういう気持ちであなたに期待していると思います。

 私は、あなたの作品を見て、全然好みじゃない女優にグッと来てしまったり、全く興味のないジャンルにもやっとしたり、させられました。私は痴女とかレズとか、全然好きじゃないんですよ。あなたの作品には、ハードルを越えさせる力がある。そして女がいい顔で写ってる。もう、大物になる条件は、揃っているんです。

 では、K*WEST監督の作品をひとつ、紹介します。最新作ではないけど、わりと最近の作品です。