『荒地の恋』ねじめ正一&『咲き走り★ホットロード』すぎはら美里

★担当の編集さんが「あまりにも面白いので」と送ってくれた『荒地の恋』(ねじめ正一)、あまりにも面白くてひと息に読んでしまった。凄い。全然描写に無駄がなく、あざやかな構成にぞくっとくる。おとことおんなの、そういうことになるしかないどうしようもないもつれと、そのさなかにあることの幸福や不幸が「詩」によって切り取られ、つながれ、生きていく。こういうものを読むとぞっとする。何十年、刀を研いできたひとの文章の切れ味はちがう。これぐらいの価値がなければ出版する意味がないのだとしたら、書店の本の多くは燃やされてしまうのではないか。背中が炎で熱くなる。その名人の刀の前では、どんな言い訳も通用しない気がする。自分は作家ではないからとか文学者ではないからとかただのエロ本の雑文書きであるからとか、そんな言葉は刀をつきつけられた喉元から永遠に出て来れない。ものを書いているという時点で「これぐらい」すごいものがあると知ってしまったら、それを知らないことにはできないし、「それぐらい」のところを目指さないでいるのは、怠慢でしかないんじゃないか。髪の毛に火が燃え移りそうだ。首筋に刀、背中に追って来る炎、心に波を、もって人は、キーボードに触れる。のだろうか。


★で、それとはまったく違う本なのですが、元AV女優のすぎはら美里さんが書かれた『咲き走り★ホットロード』(講談社)が、いい本でした! 「元AV女優」とかいうことを置いといて、すぎはらさんの書きっぷりがまっすぐで、正直で、熱く情がほとばしるような文章。上手く見せようとか、自分を良く見せようとかがなくて、嫌味もなければわかりにくさもない。竹を割ったような文章です。


 時系列で言うとすぎはらさんの経歴は、暴走族→AV女優→歌舞伎町のミックスバーのママ→「エンタの神様」出演、なのですが、これを時系列でなくミックスバーから始め、エンタ、暴走族、AV女優、という順序で書いていく構成も上手い。ミックスバーでのママっぷりを最初に書くことで、「元AV女優」という先入観よりも先にちゃんとすぎはらさんの人柄や、すぎはらさんがどういう人なのか、ということが伝わってきて、そのすぎはらさんはAVでも、暴走族でも、何をしているときであっても「スジが通ってる」のがわかる。すがすがしくて、どこか青春小説のような作品だと思いました。


 誰かひとりが「AV女優」「元AV女優」のサンプルとして見られるのではなく、「AV女優って言ったって、人それぞれ全然違うんだよ」という当たり前のことが伝わる本でした(これ読んで「AV女優ってみんなすぎはらさんみたいな人なんだ」と思う人はいないと思う)。すぎはらさんはすぎはらさんの「自分」を生きて「自分」を書いている。すぎはらさんの、体当たりで人にぶつかっていくようなコミュニケーションのまっすぐさが美しく、男優の森くんのエピソードも出てきたりして、AV好きにも楽しいですよ。AVの仕事を「誇りに思う」という言い方でなく、かといって否定するでもなく、借り物でない自分の言葉で書いてあるこの感じ。いいなと思いました。

荒地の恋

荒地の恋

咲き走り☆ホットロード

咲き走り☆ホットロード