★電車の窓から桜を見ながら桑田佳祐の歌を聴いていると、すべての男の不埒な欲望を、桑田佳祐ひとりの純情によってゆるしてもいいような気がしてきた。春。食欲を満たすためだけにバイト同士がつきあってそうな小じゃれたラーメン屋に入ってたいしておいしくもないラーメンを注文して「紙エプロンお使いになりますか?」「結構です」というやりとりをしてしらじらしい気分になり、黙々とラーメンを食べた。ECDの本でたばこを吸っている女の姿がときどきとてもわびしいものに見えるというようなことが書いてあったけれど、ニコチンではなく食物をなんのよろこびもなく欲求のままに摂取する私の姿は寒々しくてわびしいものに見えるんだろうかと一瞬考えて、でも手は止めないで一気に食べた。本当はなにが食べたかったのか、わからない。コートを脱がずに食べて、そのまま店を出た。大きな桜の木が見たい。