『Mドラッグ』

 えー、最近「見ると気持ちが暗くなる」「っていうか、見たくない」「見なくていい?」とネガティブな評判で持ち切りの当サイトでありますが、優しく心の弱いみなさんにも安心してご覧いただけるよう、とりあえず誠心誠意更新したいと思います。

 ちょっと前のエントリになりますが、松永さん(http://d.hatena.ne.jp/matsunaga/20061007)が『エロの敵』(翔泳社)の中の、『「感じてきたら笛を吹く」という、当時考えても今考えてもどう考えてもおかしいとしか言いようのない演出』という部分を引いてくださってますが、この村西とおるの演出、最近、復活しなくてもいいのに復活してるんですよ。ちょっとご紹介しておきますね。

 『Mドラッグ』(ドグマ・バクシーシ山下監督・現在発売中 http://www.dogma.co.jp/event/2d1climax/d1205.htm)という作品なんですけど、よく見るとMの下に小さ〜い字で『URANISHI』と書いてあるんですね。東北出身の自称エロ大好きで自ら志願してAV女優になった野々宮りんと、昭和最後のエロ事師にして前科7犯、借金50億(円ですよ。ルピーとかじゃないです。秒単位で利子が増え続けているというウワサ)の村西とおるの世代を越えたセックスセッション……のハズが、世代だけでなく色んな要素が断絶したままなので、残念ながら笛はそこまでピーピー吹かれてません。吹かれるどころか、試し吹きした瞬間に野々宮りんちゃんに「……これってエロいんですか?」ともっともな疑問を投げかけられてます。ちなみに笛を吹くルールは「感じてきた時には一回、もっと感じてきたら二回、もうたまらないという時は三回」というのが『SMっぽいの好き』の時からの定番ルールなのですが、これがなんか温泉街の土産物屋とか、海辺の、商品に年期の入ったホコリがたまってそうな土産物屋に売ってそうな貝に吹き口のついた笛なんですよ。
 一度は見た覚えのある品なのですが、探してみるとこれが見つからないそうで、山下監督は熱海から探し始めて、見つけたのは屋久島だとおっしゃてました。撮影当日の朝に空輸でようやく届いたとか。ご苦労さまです。さすが屋久島、絶滅寸前の天然記念物の土産物までが生息してます。

 村西とおる、という人を知らない世代も、知ってる世代も、冒頭の「お待たせいたしました、お待たせしすぎたかもしれません」というセリフを聞いた瞬間から笑いが止まらず、怒濤の村西トークのグルーヴに身を任せるほかないんですけど、これがもう15分ぐらいが限界。最初は余裕で笑ってられるけど、20分を過ぎたあたりから村西とおるの毒にあてられ、見てるだけで体力を奪われていく感覚に陥ります。もちろん前半はずっと村西さんがしゃべりっぱなしなので、ちょっとその、何て言うんでしょうか……弟よ! ご子息が頭をもたげにくい状態が続くんですね。村西さんのインパクトがあまりに強いので、ついつい村西さんのことを書いてしまいますが、むしろ良いのはその後の、村西さんがお帰りになってから野々宮りんの自宅に行ってセックスする場面や、ホテルでのハメ撮りで、「エロが大好きで、自分からAV女優になって『この仕事がんばります!』と何のためらいもなく明るく言ってのける野々宮りんのメンタリティとは何なのか?」ということを、山下監督がわからないながらも探ろうとする部分です。ハッキリとした結論は出ないし、よくわからないままに終わるのですが、それでも彼女は別にカラ元気とか、何かのトラウマから変な方向に暴走してるとか、そういうのでは全然なくてナチュラルに明るくカワイイわけで。
 彼女のこうした部分には、最近のAV女優のひとつのあり方というか、そういうものが非常に顕著に出ている気がするんです。「エロい女」というのが、非常にポジティブで肯定的な、賞賛の意味合いを持って使われるようになってからの世代だからなのか何なのか、その理由はよくわからないながらも、興味深いです。

 というように、「笑える」とか「興味深い」とか、AVとしてはまったく賛辞ではない言葉が並んでしまうのがバクシーシ山下監督作品の特徴なのですが、あまり普段AVを観ない人や、別にオナニーできなくてもかまわないという人には(普通のセックスシーンはあるので、できなくもないとは思いますけど)わりとおすすめしやすい作品かもしれません。

 って長くなってしまったのでビーバップみのる監督の作品はまた次回に。むちゃくちゃいいから、レビューを待たずに買っても大丈夫ですよ、みなさん。