「NANA」

★「NANA」をついに読破しました。いやー、めっきりへこんだね! あんなに絶望的な現実を突きつけてくるマンガだとは……。もう年内は立ち直れないほど姉ちゃん打ちひしがれました。ちょっとこれから先はネタバレを含むので、未読の方、先を知りたくない方は読むのを控えて、パッと目を閉じてコマンドQ(マックユーザーの方のみ)してください。



 はい、いいですか? ちょっともう、すごいね、これは。こんなマンガだとは全然思ってなかったよ。ってか仲間内(基本的に二つのバンド、プラス素人数名)だけでグルグル恋愛とかセックスとかが巡り巡ってドロドロしてんのって、AV業界内だけのことじゃなかったんだね……。みんなが集まるとこに行ったら元カレとか元カノとか浮気相手とかはけ口とか出来心とか、ホントは純愛なんだけど関係はセフレとかそういうのがザクザクいて心が痛んでトイレに駆け込んで泣いたりとか(誰の話だ)、そういうのって普通の社会でも普通にいくらでもあるんだな……。

 セックスや恋愛を知る年齢が早くなっている、というのがどこまで本当なのかはわからないけれど、「NANA」を支持しているのが10代や20代の若い女のコたちなら、彼女たちは私の世代よりもはるかに早く恋愛やセックスの絶望に気付き、はるかに早く何かを諦めて生き延びる方法を考えているんだろう。今、私が読んでいるのは16巻までなんですけど、そこまでを読む限り見えてくる教訓は、ものすごいシビアなものです。

 特に夢もなく、仕事をしても全然打ち込めないし夢中になれない。っていうか仕事がキライだし、働く女としてキャリアを積む気もない奈々は、自分の居場所のなさを感じ、居場所を求めて恋愛を繰り返す。奈々は自分の恋愛に逃避や依存の要素が含まれていることを自覚していて、満たされない気持ちを抱えながら恋愛やセックスに没頭し続ける。

 ってこう書くとすげ−バカな女みたいに読めると思うけど、よっぽど潔癖に、誠実に生きている人でない限り、奈々のことそんな人ごとには読めないようになってるんですよね。おそろしいことに! だって自分の好きなバンドの人から誘われて断れる? やるよね? 彼氏いてもやるよね? 当然じゃない? そんなことない? だって誘われないよ? 一生の記念じゃん。そんなのに誘われただけで誇りとか名誉とか思わない? そんな時にゴムつけろとか言える? 言えなくない? ヤッていただけるだけでもありがたいのにそんなこと言える? 

 このあたりの階級差みたいなものもよく出てくる。奈々は結局妊娠しちゃって、誰の子供か微妙ながらも、結婚相手に選ぶのはそのバンドマン。女遊びが激しくて、誠実じゃない。仕事が一番で仕事のためなら妻子を犠牲にもする。でも金は入れるし、籍も入れる。奈々は本妻という立場と引き換えに浮気も容認するし、自分のつらさも徹底してこらえる。奈々は「身の程を知って」いて、そのことに絶望している。チャラチャラしてて、お金持ちになって好きな服とか着たーいなんつってイイ男と結婚して幸せに暮らすことだけが夢。だったんだけど、しょせん恋愛に依存しているだけの自分には、誠実な男と結ばれて愛し愛されて幸せに暮らす、なんてハッピーエンドが来ないことをよく知っている。

 奈々は、わざと冷たくて不誠実な男を選ぶ。ここがまた怖いんだけど、この気持ち、わかる人って多いんじゃないでしょうか。誠実で「君のことが一番好きだ」みたいなこと言う男って、あたりまえなんだけど恋愛でモメたら側にはいてくれないわけですよ。でも、奈々はそういう時に側にいてくれる男が欲しいわけ。だったら、たとえ自分に対して誠実じゃなくても、いいかげんになぐさめてくれたりセックスしてくれたりして、いちおう籍入れて生活の面倒見てくれる男のほうが安心なんです。そうじゃない? 恋愛でくっついたら、そこでモメたら全てが台無しなんだもん。子供産むのにそんな危険なことできないよ。

 もう一人のナナの方も、仕事と恋愛が同じ場所で行われるハメになり、ものすごい不安定になる。恋愛の中で仕事に向き合わされ、仕事の中で恋愛に向き合わされてボロボロになっていく。

 はっきりとそうは描いてないけど、「NANA」の中には、「恋愛をするためには、傷ついた時のために安全ネットのようなもう一人の異性の存在が必要」ということがよく出てくる。これは本当によくわかるし、たぶん、こういうことをやってる人はたくさんいるんだろう。ひどい話だけど、そうなんだ。今、恋愛をまともにやろうとすると、安定剤かもう一人が必要。それが多くの若い女のコの実感なんじゃないだろうか。


 「NANA」で描かれているのは、自立、独占欲、孤独、恋愛、セックス、女の人生、そういう要素の数々で、安易な夢は見せない。二人のナナが学んでいくことは、今のところ、絶望や諦めだ。人は淋しければセックスしちゃうし、情にほだされるし、何かあれば疑心暗鬼になる。そうなんだけど。確かに現実はそうなんだけどさ、ここまで徹底して「完全に幸せな恋愛なんてない。浮気なんて当たり前だし、不安になったらすぐ他に行っちゃうよね」っていうのを描かれると、キツい。でもその「現実」に追いつけている少女マンガが「NANA」だけなんだろう。

 仕事で成功することなんて、誰も夢見てない。カワイイ服着て、カワイイままカワイイことを評価されて生きていきたい。でも、芸能人やモデルになる根性ないしそこまでカワイくもない。そういう女はたくさんいるだろうし、そのことを誰も責められないよね多分。仕事で成功する、なんて道はいっこも楽しそうに見えないんだから。仕事で成功してて美人っていうのはたまにいる。でもそういう女は、彼女たちから見れば「かわいくない」んだ。かわいくない女になってまで何かやってどうすんの? モテなくなっていいわけ? それよりいい男と結婚したほうがよくない? って言われたら返す言葉もない。でも、フツーの貧乏主婦もつまんない。金持ってるいい男と結婚できる確率が低いのは彼女たちも知ってる。だから「NANA」なんだよな。金持ってて、自分が好きになれるようないい男なんて、ごくごくわずかだ。浮気ぐらいで手放すわけないよ。全てが満たされることなんてあるわけないから、何かを諦める覚悟を決めろ、ということなのか。

 少女マンガだけど、何よりも今の現実を強烈にグッサリ描いたマンガであることは間違いなく、よく「登場人物がセックスばっかしてる」って言われてるけど、そこもすごいリアルなんだよね……。若い男女が身近にいたら、ちょっと何かあったらやっちゃうよ。やっちゃうでしょ? そんなにおかしなことじゃないじゃん。周りでしょっちゅう起こってることだよ。

 でも、それはやっぱり傷つくんだよな。いくら当たり前になっても傷つくし、慣れない。慣れるには自分の中の何かを殺さなくちゃいけない。まだ結論ははっきりしていないけど、私はこの物語は「奈々」が、自分の中の「ナナ」を諦めて殺していく物語のように読める。一人の女である「奈々」が、自分の中のフレッシュな感情や希望(夢を実現させたい。男と純愛を貫きたい、真剣で誠実な、かけがえのない関係を築きたい、汚れずに生きていきたい)を、あきらめて殺していく物語に読める。そして代わりに奈々は子供を産むわけだ。

 少子化とか言ってっけど今の若いコってわりとみんな子供産むじゃん。それはさ、それが一番信じられるものだからなんじゃないのか、と私はよく思ってしまう。恋愛やセックスなんてはかないもんで、男の気持ちなんか信用できなくて、子供。とか家族。とかしかもう信用に値しないんじゃないかって。

 ひとごとのように書いていても、私だってあぶないもんだ。紙一重ですよ。信じたいと思ってるけど、裏切られたらまるっきり奈々と一緒の立場までいつだって堕ちられる。


 今日、たまたま「DREAMGIRLS」(ビヨンセ主演・来年2/17より公開予定)の試写を観たんですけど、これもなんか結局男は浮気ばっかりしてて女をナメてて信用できないから、男はみんな捨てて女同士がんばってこー! みたいな感じになってて、ビヨンセは強烈にカワイイしショーは楽しいし、めちゃめちゃパワフルなシンガーはいるしで途中けっこう奇声を発して踊りだしたくなる場面とかあったにもかかわらず、見終わった後はなんとなくしょんぼりしちゃって、つらかった。


 と、いうわけで姉ちゃん友達に貸してもらったよしながふみの同人誌(セックスあり。しかも攻めだと思ってた人が受けだった! ひいひい言ってた! いや〜! しかも「ハチミツとクローバー」みたいなことになってた! 片思いの連鎖!)よりも「NANA」のショックを引きずったまま年を越してしまいそうです……。まだ恋愛とか結婚とかに夢を見たいので(三十路のくせに)、今から「エマ」を読み直そうと思います。姉ちゃんもエマとジョーンズさんみたいな純愛がしたい……(寝言は寝てから言うよう気をつけます)。ホントはエマの雇い主のドイツ人夫婦に憧れてます。かっこいい。「NANA」はすごいよ! 憧れるカップルなんて存在しないからね! 憧れる女も、男も、「好きだな〜」って女も男もいないよ! そのへんもリアルなんだよな〜。それぞれのキャラクターに自分の欠点がちょっとずつ入ってる感じで……。

 うすうす気付いていたけど、恋愛には絶望しかないのかな。それ以外のものにすり替えて別のものを信じていくしかないのかな。ねぇナナ、もう一度歌って……って俺でも言いたくなるよ! あ〜の〜にじを〜……ってそれは映画の、しかも「NANA1」のほうの歌だから! マジで絶望的すぎる。ここまで来たらさ、スワッピングとか恋人を交えた3Pとかしまくって、セックスなんてたいしたことないんだって思えるくらい自分を鍛えるしかないんだろうか。「NANA」読んでるとそういう方向に考えが向くね! 読まなくても向いたことあるけど、でもこれ、自分がっていうよりは「こういうマンガが支持されてるってことは、こういうキツい思いをみんなしてるってことなんだろうか」と思うときのキツさがデカいね。

 クリスマスイブにいちゃついてる幸せなカップルなんかみんなシャンパン抜いたコルクで頭打て!(ささやかな復讐)と思ってたけど、いちゃついてる中に本当に幸せなカップルってどれくらいいるのかね。みんな、どちらかは死ぬほど切なくて苦しくて、どちらかは相手のことなんて別にどうでもいいのかもしれない。そう思うと、きつい。みんなの幸せを素直にねたんでいた頃がなつかしいよ……。

 よかったらみなさんも「NANA」、読んでみてください。AV女優も登場するよ!