★『整形美女』(姫野カオルコ)という小説を読んでみたら、あまりの怖さにふるえた……。ずば抜けた美貌ゆえに普通の凡庸な感覚と縁がなく男を知らず知らずのうちに遠ざけていた女が「男に好かれる本当の美しさ」を求めて凡庸な容姿に全身整形し、凡庸な容姿を持っていたがゆえに普通の考え方で普通街道まっしぐらで男を知らず知らずのうちに惹き付けていた女が、ふとした瞬間に自分の容姿を初めて意識し「世間一般で美しいと言われる美しさ」を求めて華やかな容姿に全身整形するという話で、その二人の女は同級生。もと美人が凡庸な(作中では「ブス」と評されることもあるほどの)容姿に変わり、もとブスが目立つ美女へと変わり、二人の人生は整形によってみごとに交錯していくのだが、どちらにも「正解」がなくて、こわい。


 この作品の中で描かれる「こうすれば男にウケる」という描写の鋭さも、あまりに鋭すぎてえぐられまくって傷だらけになりました。男に嫌われる服装や言動の描写もアレすぎる。チャイナカラーの黒い服とか……意見を聞かれてもないのにシャキシャキ自分の結婚観を述べちゃうとか……。身におぼえがありすぎるんだよ!(号泣) 男の好きな服装は「紺のスカートと白のブラウスの組み合わせ」っていうのも、もう……。それってどこの『ザ・ベストspecial』なのよって感じだし、そういうエロ本イズムが刷り込まれすぎて、紺のスカートも白いブラウスも買っちゃって持ってるんだけどなんか恥ずかしくて着れない(コスプレしてる気分になるんです)し!


 どうすればモテるんだ!? 本当のモテの道はどれなの? と思って読んでると、はしごをはずされまくるどころか、元々立っていた地面よりも低く深い穴に突き落とされる感じがして、最後は泣きながら「もう分不相応なモテとか追い求めません! すみませんでした!」と土下座して謝りたくなる内容でした。ものすごくおもしろかったです。


★冷静に考えると、この小説で描かれていることは、人は自分の「持たないもの」の影におびえ続ける、ということで、だから「持たないものに焦がれて、整形によってそれを得た」からといって幸せにはなれない(目立つほどの美しさと凡庸な容姿を同時に持つことはできないので、必ず「持たないもの」が生まれてしまう)。でも「持たないものを得て幸せになる方法」は描かれなくても、「持たないものの影におびえ続ける生活」から逃れる方法は、提示されているなと感じる。感じるけど、私はまだ「持たないもの」に恋い焦がれる程度にはエネルギーがありあまっているのであった。