ポツドール「女のみち」

 いやー、一ヶ月前までサッカーに色んなリーグがあることすら知らなかった私ですが、そしてJリーグというものがそのリーグのひとつであることが知識としてはわかってもいまいちピンと来ない(観たことないから)私ですが、今ではマルセイユルーレットが何か、ということまで知っている程度には成長し、ジダンの頭突きが非難ごうごうでもなんとなく「人間のやってることだから、こんなこともある」という気持ちにもなったりし、その後試合はめためただったけど、それよりもこんな風に突然何かを好きになっちゃって、自分が村上龍ばりのミーハーだったことを思い出しました。多分二年後とかには全然違うもののことを言いだしたりしてな。羽根よりも軽い人生。退屈しのぎに何かに夢中になってるうちに死んじゃうよ!

 先週、AV監督でもある溝口真希子さん作・演出のポツドールの舞台「女のみち」を観てきました。複数の女優が共演するAVの制作現場・楽屋を描いたものなのですが、特に何か特別な出来事が起こるわけでもなく、えんえん、AVの制作現場や取材現場にいればどっかで聞いたことのあるような、ものすごく陳腐でうわっつらだけの膨大な会話が続き、それによってただそのことだけを描くという、美化も安易な感情移入もない、素晴らしいものでした。
 「なんか名前にドットつけろって言われたんだよね〜」(※しばらくkay.とかnao.とか、名前の最後にピリオド打って「ケイドット」とか「ナオドット」とか発音させる女優の名前がはやってたことがあって、何代目ドットガールとか呼ばれてた)とか、「私、この世界で初めて人に認めてもらえた気がして」とか、女の小競り合いとか、ワルクチ大会とか不幸自慢とか、自殺未遂どっちがスゴイとか、そういう「あー! 言う言う」ってセリフが満載で、外から見てればばかじゃないのと思うような出来事なんだけど、まぁ、心の底では笑えない。ヤッちゃった男が知り合いの女とヤッてたりとか、そんなしょうもないことで一応傷ついたりとか、たかだかAVのことに必死になったり、あんま、人ごとじゃないんですよ。空虚でなんにもなんない会話の集積だけど、自分の毎日がそれより高級かっつーとそうでもないし、女同士牽制しあって、蹴落としあって、そういうことには巻き込まれていくし、自分もやってるし。
 私は、汚れてない女は、女じゃないと思っていて、他の女を出し抜いたり、男にウソをついたり、ずるいことやひどいことをやらないで、そういうことを非難してばかりいる女は、嘘だと思う。そういうことを、正当化するでも美化するでも、否定するでもない描き方、というのが私には一番の驚きで、こういう視点があったということに、陳腐な言葉で言えば、超カンドーしました。すごい。ものすごい。私は自分が、AVの世界に両足つっこんでおきながら自分が脱がない(もしくは、脱げない)人間であることに、強い引け目や劣等感を感じていたのですが、この舞台を観て、はじめて自分が女だということから逃げる気持ちがなくなったように思います。脱ごうが脱がなかろうが、ああいう部分は、自分にもある。汚れてる部分を確認することで、汚れているがゆえに、女である自信が持てた、という仕組みか。昔は、人と深く関われなくて、汚れたくても汚れられないことがしんどかったから、汚れていることが実はささやかに嬉しい。

 劇中で加藤ミリヤの「ロンリーガール」がかかるのですが、この曲は加藤ミリヤのずっと前に、ECDK DUB SHINEがベースにしてラップをしていて、内容は援交少女に対してのメッセージソングでした(カラダを売ること、売ってブランドものにつぎこむこと、子供みたいなトシなのにもうセックスをビジネスにしていることに対して「早く立ち上がれ」と言う、そういう内容の詞です)。私は、モロ援交世代でファッション狂いでブランドものをたくさん持っているであろう加藤ミリヤがこの曲をやると聞いたときに「言ってやれ! アンサーソングだろ? どこが悪いんだ淋しくなんかねーよ馬鹿じゃねえのって言ってやれ! 高いモン買っていい服着る以外に何の楽しみがあんの? って言ってやれ! オッサンのたわごととして前の曲を風化させちまえ!」と盛り上がっていたのに、別にあんま内容ない詞でやるせなさを歌ってるような感じだったからガックリ来ていたんだけど、この劇中でかかると、そのからっぽさこそがアンサーであるような気がしてきて、ECD好きなのにこの曲に関しては加藤ミリヤの方がずっといいと思えてきました。ヒリヒリする日常、なんて、えてして他人から見たらものすごい陳腐でどーでもよくて、でも、それに酔っぱらったことのある人間のことを、私は嫌いになれない。自分も酔ってるから。そして、醒めて、冴えてて、女のことを「女だから自分のこと」という、ベタッとした感じでも、まるっきりの他人ごとでもない距離感で描ける溝口さんという人は、面白い人だと思いました。

 舞台はもう終わってしまったけど、スカパーで8月に放映するそうなので、ご覧になりたい方はそちらでどうぞ。