『片想いレズビアン あずさとあかり』

★『片想いレズビアン あずさとあかり〜離れていても、二人はいつも同じ空の下で…〜』(マドンナ http://www.dmm.co.jp/mono/dvd/-/detail/=/cid=juc277/)観てたら30分ぐらいであまりに切なくて胃が痛くなって鑑賞中断。な、なにこの涙と鼻水……。きっと花粉とかだよね!(ごめん花粉症じゃないよ)も、もう確定申告できない……。AVなのに初めてのベロチューまで34分、早送りできないで観てしまうクオリティの高さ。服とか部屋とかがすごいリアルで、私はAVのご都合主義が嫌いではないしエロい衣装も好きなんだけど、それでもここまで徹底して服や部屋からキャラクター作りをされるといやでも感情移入してしまう。AVにはめずらしく、この作品では「女が好きな女のファッション」が出てくるんですよ。女のコが役柄ではなく、本当に存在するキャラクターのように思えてくるし、ここで描かれている「感情」は、「ご都合主義なセックスのための感情」じゃなくって、本当にふつうにこの世の中にあるとてもありふれた、でも本人にとってはどうしようもなく切実な感情なんだと思えてくる。女同士だからさ、泊まった翌日に服を貸したりしてるんだよ! これがさー、女のコがぶかぶかの男のシャツ着てるのと同じくらいいいの。ふだんはセレブ系ファッションのあかりちゃんが、ふだんチュニックとかカジュアルめのガーリーなかっこしてるあずさちゃんの服を借りて着てるんだよ。この「好きな人が、自分の服を着てうちにいる」幸福感よ。家の中の景色が、その人がいるだけでぜんぜん変わってしまう感じもしっかり映像になっている。


 すごいと思ったらこれ『制服レズビアン』(これも名作)の井坂監督じゃないですか。『制服レズビアン』はセミドキュメントで、今作は完全なドラマ作品なのですが、今作はすべてにおいてパワーアップしている印象で、なんか大きな壁を乗り越えてきたかのような大物感が漂ってます。ちょっともう普通に観れない。なんなら観たくないくらいせつない。私はレズビアンでもなんでもないんだけど、この設定には違和感を感じないどころか気持ち入りすぎてこわいですよ。ATフィールド破壊されて心の内側から全身破壊されそうに感情がひしひしと伝わってきすぎるよ……。主人公がフリーライターだからか。同じノートブックを使ってるからか。いやそこは関係ないと思うけど!


 そして桐原あずさちゃんの演技は本当にすばらしい。意識してやってるわけではないと思うんだけど、男の目にどう映るかという媚びた演技じゃないんだよね。「AVの演技」っていう、いやおうなく「男向けに媚びた」ものになりがちなものを、なぜかうまい具合にスルーしていて変なクセがついてない。自然で、うまいとかへたとかじゃない存在感や感情があって、うそじゃないほんものの「女」がそこにいるっていうリアリティがある。この作品は桐原あずさなしでは成立しなかったと思う。声もいいんだよな。なんなんだろうこの良さは。「どう見られているか」は意識しているんだろうけど、そこに過剰な恐怖もなければ、他人の目をみくびっている感じもまったくなくて、過不足がない感じって言えば少しは伝わるかな。自分を過剰に良く見せようともしていないし、ただ役柄を理解してその役のうえに自分の感情を乗せるっていうことをとても自然にできている感じがする。


 私はレズビアンではないと書いたけど、じゃあどういうふうにこういう作品に感情を重ねているかというと、好きな人のからだを初めてさわるときや、好きな人の裸を初めて見るときの感じを(その相手が女に変わっているだけ、という感覚で観れる)味わうのと同時に、自分のことを好きな人が、自分に触れたり自分を見たりする感覚が、こんなに嬉しいものだったらどんなにいいか、と思う、両方です。レズ作品の場合、触れる側にも触れられる側にも感情移入できて、触れる自分、触れられる自分、そして触れる相手や触れられる相手の感情まで想像してしまう。


 もちろん現実には、相手が触れられることや触れることを望まない場合もあるわけで、この作品でもそこに到るまでの不安や葛藤はしっかり描かれている。だからこそ最初のセックスがものすごいわけで、絶対やるに決まってるAVでこんなにセックスシーンが始まるのが怖かったことなんて今までにない。こんなことしちゃって嫌われたらどうすんの!? っていう緊張感や恥じらいや戸惑いやそれを上回る喜びが描かれているセックスは、ちょっともう、誰にでもはおすすめできないくらいせつなくてつらい。映っている映像にちゃんと「好きな女のからだを見るときの喜び」が入っているんだよね。私は、そういう、愛おしさや欲情や、胸焼けしそうな安っぽい劣情でもいいんだけど、何らかの感情がちゃんと映っている映像には心からの敬意をささげたいです。


 そして見てると、ノンケの私でも女同士のセックスをしてみたくなるところがまたこわいところだなー。何を言ってるんだ、自分よ……。ちょっと混乱してます。劇画のレズでもエロマンガのレズでもAVのレズでもない、新しいレズビアンの世界を、井坂監督はつくっていると思います。ゲイだろうがノンケだろうが切実な恋情が描かれているものには誰しも心を動かされてしまうように、この作品には自分が男と女のどっちが好きかとは関係なく引き込まれる何かがあると思います。日常の延長線上にあるいちゃいちゃぶりとかも本当にリアルだよー。ネタバレになるからストーリーの詳細書けないけど、いいんだよ、これ。心がかなり不安定な感じの「あかり」のキャラクターもすごいリアルだ……。こういう女大変だよなーめんどくさいよなーと思うけど「あかり」的な部分って自分も身に覚えがありまくるわけで、さらにキツい。ほんとなんなんだこのAV。まじで助けてくれ! 観るのが苦しいけど観ずにはいられない……!


 AVなのにドラマがすごいとか映像がすごいとか書くと、それって映画でもよくない? っていうかAVでやる必然性あるの? と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私は映画でもいいだろ、っていうAVは「いいAV」だとは思ってません。これは、セックスシーンがなければいけない作品で、映画みたいな作品を撮りたい人がAVを利用した作品では絶対にないと断言します。セックスにはいろいろな種類の快感があると思いますが、この作品ではセックスで感じる愛情や不安や、それらの感情が快感に変わっていく瞬間を描くためにドラマ部分が必要不可欠なものになっているし、そういう「想い」が叶う瞬間としてのセックスシーンもまた必要不可欠です。それに加えて、この作品は、私はできればひとりで家で観たい。映像がきれいだからスクリーンで観てみたい気持ちもあるけど、ちょっと個人的な感情をゆさぶられすぎるので、夜中にひとりで家で観るのがいちばんいいような気がします。そういう形で向き合うのが合っている作品ってあるはずで、それがAVのいいところだと思います。


 3月25日発売で、ただいま予約受付中です。これ、ほんっとにいいと思うよ。私の中ではAV界のエヴァンゲリオン……(何を言ってるんだ)。うわもう助けてこれ何回泣けばいいのもう許してごめんなさいごめんなさいごめんなさいって感じになる。傑作です。傑作。くわしい内容はいずれレビューなどで書きますが、今すぐこの感動を伝えたくて思わず勢いでTwitterのアカウントとりそうになりました。長文になったからとってないけど……。